ゴリラの登場

https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=event&inst=ueno&link_num=22646
1957年、上野動物園に3頭のゴリラが来園しました。公立の動物園としては日本で初めてのゴリラの展示となる、歴史的な出来事でした。
最初の3頭
♂ブルブル(1957年来園〜1997年没)
♀ムブル(1957年来園〜1980年没)
♂ザーク(1957年来園〜1983年没)
1963年、神戸市立王子動物園へ移動。その後、驚異的な成長を遂げ、1982年には世界で一番重いニシローランドゴリラ(285kg)としてギネスブックに記載されました。現在、ザークは神戸市立王子動物園で剥製となって展示されています。

http://www.kobe-ojizoo.jp/blog/detail/?id=16788
わずか6ヶ月の滞在
1959年、新たに3頭のゴリラが来園しましたが、わずか6ヶ月後に名古屋市東山動植物園へと移動していきました。この3頭は、今では信じられませんが、調教を受け、5年間にわたってゴリラショーで活躍したという記録が残っています。

https://www.higashiyama.city.nagoya.jp/history/zoo/04.html
♂ゴンタ(1959年来園〜1973年没)
♀プッピー(1959年来園〜1978年没)
♀オキ(1959年来園〜2010年没)
1988年に国内7例目の出産を経験しましたが、残念ながら死産でした。2010年に推定53歳で生涯を終えました。当時の日本では最高齢、世界では2番目の長寿記録でした。
繁殖への期待
1968年、本格的な繁殖を目指した導入が始まり、雌雄の同居も行われるようになりました。
♂ゴクウ(1968年来園〜1975年没)
♀タイコ(1968年来園〜2000年没)
♀べべ(1960年来園〜1977年没)
1970年に♂マックを出産し、日本で初めてゴリラの母親となりました。しかし、母親による育児の様子は見られなかったため、人工保育となりました。
♀トヨコ(1969年来園〜2002年没)
♀リラコ(1970年来園〜2007年没)
1977年に別府ラクテンチで♀ローラを出産しました(人工保育)。上野動物園ではメスの最年長として、群れの大切な存在でした。なお、ローラはリラコの娘として、後に上野動物園で母と再会することになります。

https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?link_num=7930
ゴリラ群れ形成計画
1990年をピークに、国内のニシローランドゴリラの飼育数は減少の一途をたどっていました。繁殖が難航していたのです。当時、出産例はいくつかあったものの、無事に育った個体はわずか3頭、そのうち2頭が人工保育という厳しい状況でした。
ゴリラの来日ルート
当時、野生のゴリラがどのように日本にやってきたのか。その過程は決して楽なものではありませんでした。

ハンターが野生の群れから子どものゴリラを捕獲します。この時、人間に対して敵意を向けた大人のゴリラたちも犠牲になりました。捕獲された子ゴリラは売買され、やがて日本の動物商のもとにやってきます。当時の価格は1頭300万円から600万円と、決して安価ではありませんでした。しかし、ゴリラの人気は高く、多くの動物園で導入が進められました。
繁殖が難しかった理由
幼少期に群れを離れたゴリラは、本来群れの中で得るべき経験—仲間との接し方や交尾の方法—を学ぶ機会がありませんでした。また、幼い頃から一緒に過ごしたゴリラたちは「兄弟」のような意識を持ってしまい、繁殖に結びつかないと考えられました。

群れ飼育への挑戦

上野動物園は、繁殖成功のためには「群れ」の形成が重要だと考えました。1993年から全国の動物園と協力し、各地で単独飼育されていたゴリラを上野動物園に集め始めました。1996年には「ゴリラのすむ森」が完成し、本格的な群れ飼育への挑戦が始まりました。
全国から集まったゴリラたち
広島市安佐動物公園から
♀ピーコ(1971年来日〜2021年没)

http://www.asazoo.jp/event/news/animal/4788.php
東京都多摩動物公園から
♂サルタン(1971年来日〜1998年没)
東武動物公園から
♀ローラ(1977年生まれ〜2025年没)
1977年別府生まれ(人工保育)。人工保育で育ったためか、人間のようなしぐさを見せることで知られていました。2025年5月15日に47歳で死去。日本生まれのゴリラとしては最高齢でした。ローラは東武動物公園を経て、後に千葉市動物公園で暮らしました。
宮崎市フェニックス自然動物公園から
♂ドラム(1980年来日〜1998年没)
コールモーデン動物園から
♂ビンドンⅡ(1995年来園〜2016年没)
父親は「Copito de Nieve」。アルビノのゴリラとして世界的な人気を集めました。21頭の子どもが誕生し、現在は曾孫が7頭います。※ビンドン(Bindung)という名前の兄がいました。

ハウレッツ&ポートリンプ野生動物公園から
♂ビジュ(1997年来園〜1999年没)
上野動物園に来園する9ヶ月前に、♀「Kabinda」(現・上野動物園♂ハオコの叔母)との間に娘が誕生しています。※♂ハオコとの血縁関係はありません。
静岡市立日本平動物園から
♀トト(推定1978年生まれ)
1999年から上野で暮らす最年長のゴリラです。
京都市動物園から
♀ゲンキ(1986年6月24日生まれ)
日本で初めて誕生した3世代目のゴリラ。1999年に上野動物園へ移動しましたが、メスの個体との関係が悪化したため京都市動物園に戻りました。京都では2頭を出産し、現在は3頭目を妊娠中です。

千葉市動物公園から
♀モモコ(1983年6月3日生まれ)
出産数は日本最多の6頭を誇る、経験豊富な母親ゴリラです。
別れと希望の光
1999年、繁殖経験があり、メスとの繁殖が期待されていた♂ビジュが急逝しました。来園してわずか1年10ヶ月という、あまりにも早い別れでした。

しかし、わずかな希望の光がありました。♀モモコとの交尾行動が確認されていたのです。
2000年7月3日—歴史的な瞬間
飼育開始から43年、ついに上野動物園でニシローランドゴリラが誕生しました。名前は♂モモタロウ。父親は前年に亡くなったビジュ、母親はモモコです。モモコは初産でしたが、母親のもとで順調に成長しました。

東京ズーネット:https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=ueno&link_num=10575

第二計画
♂ビジュの死亡によって、上野動物園には繁殖経験のあるオスが不在となっていました。♂モモタロウが生まれた後も、繁殖を継続するため、新たな個体が導入されました。
浜松市動物園から
♂ショウ(推定1978年生まれ)
2004年に浜松市動物園に戻り、2008年からは1頭で暮らしています。両目に大きなコブがあるのが特徴です。

京都市動物園から
♂ムサシ(1981年来日〜2016年没)
愛媛県立とべ動物園から
♀ナナ(1987年生来日〜2019年没)

オランダからの仲間入り
2007年、オランダから新たに13歳になるオスゴリラが来園しました。
♂ハオコ(1993年8月21日生まれ)
名古屋市東山動植物園の人気者、イケメンゴリラ「シャバーニ」の兄です。

ハオコとモモコの子どもたち
♂ハオコは♀モモコとの交尾に成功し、上野動物園の繁殖計画に大きく貢献しました。

- 2009年11月14日 ♀コモモ
- 2013年4月24日 ♀モモカ
- 2016年10月12日 (当日死亡)
- 2017年10月9日 ♂リキ
- 2022年5月31日 ♀スモモ
現在までに5頭が誕生しました。
現在の上野動物園
2025年10月現在、上野動物園では国内最多の7頭のゴリラが飼育されています。
- ♀トト (推定)47歳

- ♀モモコ 42歳

- ♂ハオコ 32歳

- ♀コモモ 15歳

- ♀モモカ 12歳

- ♂リキ 7歳

上野動物園[公式]X:https://x.com/UenoZooGardens/status/1446702412786372618
- ♀スモモ 3歳

新たな課題
2000年以降、群れ飼育を行っている園は3園に増えました。また、日本で誕生した複数の個体が成熟期を迎えています。
青年期のゴリラたち
8歳から13歳になる青年期のオスは「ブラックバック」と呼ばれます。野生下では、この時期になると育った群れを離れていきます。その後は単独生活する個体もいれば、少数の若いオスで行動することもあります。

13歳を過ぎると、背中から腰にかけての毛が白く生え変わり、「シルバーバック」となります(ならない個体もいます)。やがてメスと巡り合い、または他の群れから連れ出し、新たな群れを築くのです。

メスも同様に、成熟すると群れを離れます。スペースや獣舎があれば、成熟した個体を隔離して飼育することも可能ですが、本来群れで生活する動物であり、繁殖も必要とされているため、新たなパートナー探しが必要となります。
成熟した姉妹たち
♀コモモは15歳、♀モモカは13歳になり、群れを離れる年齢に達しました。
移動計画2025年
2025年8月7日、新たな移動計画が発表されました。
千葉市動物公園へ
♀モモカは10月8日に千葉市動物公園へ移動し、♂モンタとの繁殖を目指します。

新たに仲間入りする2頭
名古屋市東山動植物園から
♀アニー(2013年6月2日生まれ)
※ハオコの姪にあたります

京都市動物園から
♂ゲンタロウ(2011年12月21日生まれ)
※モモコの孫にあたります。父親は上野動物園で生まれたモモタロウ、母親は京都市動物園のゲンキです

この2頭で、新たな群れの形成を目指します。上野動物園のゴリラ飼育は、次の世代へと確実にバトンが受け継がれています。
上野動物園のゴリラたちは、単なる展示動物ではありません。絶滅の危機に瀕するニシローランドゴリラの保全において、極めて重要な役割を果たしています。世代を超えて受け継がれる命のリレーは、これからも続いていきます。

ありがとうございました。必ず勉強のために役立てます。
調査・執筆に際し、多くの皆様から資料や写真をご提供いただき、誠にありがとうございました。学生の立場では得にくい一次情報や現場の記録に触れることで、テーマへの理解が格段に深まりました。ご厚意に報いるためにも、事実確認と表現の精度向上に努め、学びを次の発信へ確実に還元します。今後の研究・学習の糧として大切に活用させていただきます。