「みんなのアニマルアカデミア vol.6」北里大学・小倉匡俊 准教授にインタビュー!!~動物園のこれから~

初めに

今回は北里大学獣医学部動物資源科学科の小倉匡俊 准教授にインタビューさせていただきましたので、その様子をお届けいたします。

動物行動学比較認知科学動物福祉の専門として研究されており、とても貴重なご意見をいただけましたのでぜひとも最後までご覧いただければと思います!!

動物園はどういう施設であるべき?

Ryusei

動物園は動物虐待であるとか、そういった意見に対して小倉先生はどのように思われていますか?

私は、動物園はあるべき施設だと考えています。動物園にはさまざまな役割があり、単に動物愛護や動物虐待といった議論、あるいはレクリエーション施設としてだけ捉えられてしまうのであれば、本来の動物園の姿とは言えないでしょう。

動物園には「4つの役割」と呼ばれる重要な役割があり、これらは動物園という施設があるからこそ果たすことができるものです。そのため、動物園をなくしてしまおうという考え方は望ましいものではないと私は思います。

コラム~4つの役割って?

動物園には“4つの役割”とよばれるものがあり、これは動物園や水族館が果たすべき意義とされ、世界で共通して認識されている。

  • 調査研究
  • 域外保全
  • 教育普及
  • レクリエーション

の4つで構成され、この目的を果たすために動物園・水族館では多くの生き物を飼育している。

(参考:「改訂版動物行動図説」p.15, 動物の行動と管理学会、2024年朝倉書店出版)


Ryusei

動物園という施設を縮小し、「動物保全公園」のような形に作り直すべきではないかという意見も見られますが、これについてはどのようにお考えでしょうか?

もし動物園が見世物小屋のような形になってしまっているのであれば、それはよくないことだと思います。動物園は本来、単なる見世物として存在する施設ではありません。もし常に見世物小屋のような状態になってしまっているのであれば、動物園とは別の形の施設に代替されていく可能性もあるでしょうし、そのような状態は望ましいものではないと思います。

ただし、一部にそうした側面が見られる施設があることは否定しませんが、多くの動物園やそこで真剣に働いている方々が、見世物小屋であることを良しとしているわけではないと思います。

もしそのように受け取られてしまっているのであれば、情報の発信の仕方や、動物園の魅力の伝え方にまだ改善すべき点が残っているのかもしれません。私自身も含めて、動物園の意義や取り組みを十分に伝えきれていない部分はあるのではないかと感じています。


Ryusei

動物園は、今後どうなっていくと思いますか?

私は研究者という立場でもありますので、現在の動物園における研究の取り組みについても考えることがあります。もちろん動物園に関わる研究を行っている方々はいますが、現状の取り組みが理想的かというと、まだ十分ではないのではないかと感じています。

今後は研究により積極的に取り組んでいくこと、そしてその研究が持つ意味や価値を広く発信していくことが重要な理想ではないかと思います。

そのためにも、動物園が同じ方向の目的を持ち、研究を進めながらその成果を共有していくことが大切だと考えています。


Ryusei

動物園がこれから変わっていく過程において、その変化を妨げている最大の要因はどのようなものだと思われますか?

先ほどの話にも通じる部分ですが、動物園で行われている研究には大きな価値があるにもかかわらず、その価値が十分に伝わっていないことが一つの要因だと思います。現在は、動物福祉と動物園で行われている研究が一体のものとして捉えられてしまっている面があると感じています。

しかし、動物園で行われている研究は、動物福祉に関するものだけではありません。もちろん動物福祉に関する研究も重要ですが、それだけに限られるものではないはずです。それにもかかわらず、動物園の研究といえば動物福祉の研究だと受け取られてしまっている点が、まだ十分に理解されていないのではないかと思います。

動物福祉に関わる研究は、いわば応用研究の領域にあたります。それに加えて、基礎研究についてももっと知ってもらいたいという思いがあります。つまり、動物のことをより深く知るための研究です。動物について純粋に理解を深めていく研究は、動物園だからこそできる部分も多くあります。

そうした重要性を、私たち研究者側が十分に伝えきれていないのではないかと感じています。動物園の研究にはどのような可能性があり、どんな面白さがあるのかを社会に理解してもらえていないことが、結果として動物園の発展を妨げる要因の一つになっているのかもしれません。

もちろん、理解されていないこと自体を責めるべきではありません。むしろ、それを伝えていくことは研究に関わる側の役割だと思います。だからこそ、研究に携わる人たちが動物園の可能性を示していくことが大切なのではないかと考えています。

動物たちのために“できること”

Ryusei

小倉先生は、私たち一人ひとりにどのようなことができるとお考えでしょうか。

動物園では、一般の方々を巻き込みながらさまざまな取り組みが行われていると思います。例えばクラウドファンディングなどを応援することは、とても良い関わり方の一つだと思います。

また、クラウドファンディングに限らず、イベントが開催された際に参加することなどもできるでしょう。そうした関わりの中で、貴重な情報を得たり、実際に現地に足を運んだりと、日常の中でもさまざまな形で動物園に関わっていくことができるのではないかと思います。


Ryusei

対象を学生に限定した場合、どのようなことができるとお考えでしょうか。

まずはしっかりと勉強することが大切だと思います。学生の立場では、動物のために何か直接的な活動をしようとしても、どうしてもできることには限りがあります。無理に何かをしようとするよりも、まずは動物のことを思う人たちと声を掛け合いながら、動物について学んでいくことが重要ではないでしょうか。

動物園に関心があるのであれば、実際に動物園へ何度も足を運んでみることも一つの方法だと思います。教室の中での勉強だけでなく、さまざまなものを自分の目で見ていくことが大切です。同じ場所に何度も行くことで初めて見えてくることもあるでしょう。

そうした取り組みは一見すると遠回りのように感じられるかもしれませんが、結果として将来、動物のために役立つ力として返ってくるものだと思います。

一般からの質問

家猫は外に出たいという欲求があまりなく、外敵のいない安全な環境で毎日餌が与えられる家の中を気に入っているという話を聞いたことがあります。一方で、脱走してしまう猫もいますが、これは現在の環境を気に入っていないためなのでしょうか。それとも外の危険を知らないだけなのでしょうか。あるいは、いわゆるパトロール(ニャルソック)の延長のような行動なのでしょうか。
また、こうした行動は動物園で飼育されている動物にも同じように当てはまるのでしょうか?

前提として、私は猫の専門家ではありませんので、猫についての専門的な見解というわけではありません。ただ、動物全般の行動という観点から考えると、多くの動物はもともと自分の環境に関わり、環境を自ら操作したいという欲求を持っていると考えられます。その欲求に応じて行動しているという側面があるのではないでしょうか。

また、同じ環境にいる場合でも、個体ごとに性格や行動の傾向は異なります。たとえ展示場や飼育環境の中にいたとしても、外部に環境の変化があれば、それに積極的に関わろうとしたり、自分から探索行動をとったりすることがあります。

このように、動物自身が環境に主体的に関わろうとするというテーマがあります。一方で、現在置かれている環境そのものの問題とは別に、動物が持つ別の欲求として現れる行動もあり、そうした点も含めて考える必要があると思います。


日本の多くの動物園では、放飼場にコンクリートが使われている施設も見られますが、動物福祉や動物の健康面において課題があるとお考えでしょうか。また、動物の放飼場において改善できる点があるとすれば、どのような点が考えられるでしょうか?

コンクリートにはメリットとデメリットの両方があると思います。まず前提として、野生に近づけることだけが動物福祉ではありません。

よく誤解されがちですが、動物園の環境を野生に近づけることは確かに重要な要素の一つです。しかしそれだけではなく、動物の体の健康や心の健康といった点も、動物福祉を考えるうえで重要な要素になります。

その意味で、コンクリートの展示場は野生に近いかどうかという観点では、確かに野生環境からは遠いと言えます。一方で、掃除がしやすく衛生環境を維持しやすいという利点もあり、動物の身体的な健康を保ちやすいというメリットもあります。

そのため、展示場がコンクリートであるという一点だけで良し悪しを判断することは難しいと思います。展示場全体を通して、野生に近い生活ができているのか、体の健康を維持しやすい環境になっているのか、そして心の健康にも配慮されているのかといった点を総合的に見ていくことが重要だと思います。

また、動物園の放飼場で改善できる点としては、動物が環境に関わり、主体的に環境を操作できるような要素を取り入れていくことが挙げられると思います。動物は環境に関わろうとする性質を持っていますが、同じ環境で変化がない状態が続くと、探索したり主体的に関わったりする行動にも限界が出てしまいます。

そのため、展示場や獣舎の設計段階から、環境に変化を生み出し続けられるような仕組みを取り入れていくことが大切ではないかと思います。


世界的な視点からこれからの日本の動物園を見たとき、専門家の立場からはどのように映っているのでしょうか?
例えば、一つの動物園で飼育する動物種をある程度限定し、その分だけ飼育環境を大きく改善していかなければ、海外の動物園とのブリーディングローが成立せず、希少種保全どころか動物園そのものが成り立たなくなるのではないかと感じることがあります。
また、新しい動物園がエリアの拡大を計画していると聞くと、目先の拡張だけでは単純に応援することが難しいのではないかとも感じてしまいます。先生はこのような状況をどのようにご覧になっていますか?

今年、日本動物園水族館協会(JAZA)が「2025将来構想」を発表しています。私も実際に拝見しましたが、これからの動物園の方向性をとても良い形で示していると感じました。

まだ実現に向けた取り組みは途中段階ではありますが、今後それが動物園の現場で具体的に形になっていくことを期待していますし、私自身もその実現に向けてできることに取り組んでいきたいと思っています。


JAZA「2025年将来構想」

概要:2013年に制定された「10年ビジョン」の検証を行い、近年の情勢の変化を考慮に加えた新たな目標を明示する目的で25年に制定されたもの。主な内容は4つの目標(↓)と15のアクションの制定。

  • 生きものたちのより良い状態
  • 動物園・水族館にかかわる人の幸福
  • 地域の充実
  • 地球全体の健康

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動物に関する職に就きたい人に伝えたいこと

Ryusei

これからの動物園や動物園業界に関わっていく人たち、そして動物園をより良く変えていこうとする人たちに向けて、何かメッセージがあればお願いします。

それを踏まえてお答えするなら、この道を選んで進む方は、まず大前提として動物が好きなのだと思います。だからこそ、その「好き」という気持ちをこれからもずっと持ち続けてほしいと思います。動物が好きで、動物のことを面白いと感じる。その「面白い」と思う気持ちはとても大切なものだと私は思っています。ぜひその気持ちを大切にし、自分が面白いと思ったことを胸を張って「面白い」と言い続けてほしいです。

また、それはもしかすると動物に限ったことではないかもしれません。目の前のことや物事に対して「面白い」と感じる気持ちはとても重要で、そこから新しい発見や展開が生まれていくこともあると思います。だからこそ、その気持ちを自信を持って持ち続けてほしいと思います。

終わりに

小倉先生、このたびは貴重なお話をありがとうございました。多くの示唆に富んだお話を伺うことができ、編集部一同心より感謝しております。

時間的な制約やお話しできる内容にも限りがある中で、「それは答えられない」となる質問も多かったにもかかわらず、ご協力いただけたことに改めて御礼申し上げます。

この記事を通して、より多くの方々に動物園や水族館についての理解が深まり、その結果としてこれらの施設がさらに良い方向へと発展していくきっかけになれば幸いです。

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この記事を書いた人

Ryusei -動物ガチ勢-のアバター Ryusei -動物ガチ勢- 現役獣医学部生

動物ガチの大学生です! 動物園と一緒に動物福祉の研究しました!2023年埼玉県私学文化祭最優秀賞、2024年日本動物学会高校生ポスター賞受賞、2024年3月千葉市動物公園にて講演会を実施
推し動物はゾウ、ヒョウなど…!