現代の動物園とSNS時代の情報公開
現代の動物園は、SNSによる情報拡散が容易な社会において、情報開示に非常に慎重になっています。特に近年では、SNSでの“炎上”対策の影響が大きく、情報を出せない、出しづらいという声が多くの動物園への取材を通して実感されています。
動物の怪我や死亡に関しては、最小限のお知らせに留まったり、小動物では発表がなかったりすることも少なくありません。これは人手不足や検査結果待ちなどに加えて、
- すべてを説明したくても、その機会を設けることが難しい
- 中途半端に情報を出すと、一部が切り取られて独り歩きしてしまう
といった懸念が大きな理由となっています。

「言わなくて済むことは、言わないでおこう」というのは企業のSNS運用リテラシーとしては正しいとも言えます。
動物園は希少動物の繁殖や研究を担い、試験的な試みも行っています。その中で、予想外の動物の行動や事故が起こることも現実です。しかし、こうした事情を率直に伝えることが難しいという側面も理解できます。
旭山動物園・大西さんの情報公開姿勢
そんな中、旭山動物園の担当飼育員・大西さんの情報公開姿勢は極めて印象的でした。動物の行動に対して「すべてを隠す」のではなく、「過程も含めて見せる」という姿勢で臨み、来園者や視聴者からの信頼を得ています。
ホッキョクグマのお見合いと出血トラブル


ホッキョクグマのピリカとホクトの同居では、初日にピリカがホクトを攻撃し出血するというトラブルが発生しました。このような事態は、本来なら伏せたくなるような内容ですが、大西さんは隠すことなく詳細を説明しました。
ホッキョクグマは国内でも飼育数が限られ、繁殖は非常に重要なテーマです。野生からの追加導入が難しい中、国内での繁殖に成功することは、野生個体を捕獲せずに済むことにもつながり、動物福祉や保全の観点から大きな意義があります。そのため、少し相性が合わないといった理由で早期にペアリングを断念していたら、将来的に国内でホッキョクグマを展示し続けることが難しくなる可能性もあるのです。
この場面で大西さんは、「メスが強く主導権を持つペアの方がうまくいくこともある」と判断し、傷も獣医による処置で問題ないと確認の上で、同居を継続。その結果、実際に交尾が確認され、後に繁殖が成功しました。この一連の経過も含めて開示されたことで、来園者や視聴者が納得し、信頼を寄せる要因となったのです。
子グマ「ゆめ」のプール事件


また、子グマ「ゆめ」が展示訓練中にプールから自力で上がれなくなった際も、大西さんたち飼育員はすぐに救出せず、子グマ自身が成長の機会を得ることを優先しました。結果的には飼育員が救出しましたが、その理由と経緯を来園者に丁寧に説明し、後に映像も公開されました。


この事件はネット上でも拡散されましたが、旭山動物園は情報を一切隠すことなく、むしろ積極的に開示することで信頼を得る結果となりました。
情報公開の重要性
大西さんの取り組みは、情報を開示することで最大限の誠意と取り組みを伝え、批判に真正面から向き合う姿勢を示した好例です。動物園にとって、情報公開は批判を避けるための回避ではなく、信頼を築くためのプロセスであるということを改めて感じさせられました。
旭山動物園のこうした姿勢は、現代の動物園運営に必要な新たな基準として注目すべきものです。