四肢に障害をもちながらも17年生き抜いたアムールトラ「ココア」(と三つ子の兄タイガ)の軌跡

目次

はじめに~ココア17歳で逝く~

 2025年6月19日 釧路市動物園公式サイトにて、2025年6月18日(水曜日)午後7時24分 アムールトラの「ココア」が亡くなったとのお知らせを目にしました。その数日前から公式サイトやSNSにて容態があまりよくない旨のお知らせがありましたし、ココアは17歳という大型猫科動物の中では長寿の歳にありましたので、もしかしたらという想いもありながら見守っていた矢先でした。

 「ココア」は、釧路市動物園生まれで、四肢に障害をもちながら17年間の障害を立派に生き遂げた、雌(メス)のアムールトラです。今回はその「ココア」と「釧路市動物園さま」の歩みを私の目線からご紹介させていただきたいと思います。

画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より

タイガとココアの誕生秘話

 ココアが生まれたのは、2008年5月24日。生まれたのは3頭、釧路市動物園では初めてのアムールトラの出産でした。この日朝、出勤してきた職員の方が動かない3頭の子を確認、獣医師により仮死状態であるという状況判断からすぐに取り上げお湯に入れマッサージを施されたようです。

画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より
画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より

 3頭のうち1頭は、残念ながら呼吸がもどらずお空に旅立ちました。生存した二頭も、手足が曲がるなどの症状があり、検査の結果、軟骨の発育に異常がある「軟骨形成不全症」と診断され人工保育で育ちました。一時は歩行不可が疑われるも、二頭で遊ぶ中で歩行するようになり元気に成長する姿を見せていました。

二頭は、「タイガ(オス)」と「ココア(メス)」と名付けられました。二頭はすくすくと育ち仲睦まじくじゃれ合ったり追いかけあう様子を見せていたそうです。

画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より

新施設への引っ越し

 タイガとココアが生まれた年の2008年12月から新動物舎の建設工事が始まりました。そして2009年4月に新動物舎が完成、オープンを迎えました。

画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より

 多くの人が新動物舎を訪れ、タイガとココアの成長を見守るとともに、障害をもちながらも逞しく懸命に、そしてのびのびといきいきと生きる姿に、多くの人が心打たれ心惹かれました。

タイガお空に旅立つ

 しかし、二頭が1歳の誕生日を迎えた後、2009年8月25日午後5時28分、タイガがお空に旅立ちました。エサの肉片をのどに詰まらせたことが原因だったようです。

当日のエサの量、大きさは普段与えているものと何ら変わりなかったようですので、何らかの理由でタイガの咀嚼または嚥下に異常が生じてしまっていたのかもしれません、あくまで推測です。

画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より

その後しばらくココアは少し元気がなくなり寂しそうにしていたようです。

画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より

 しかし、その後ココアは元気を取り戻しココアらしく元気に人懐っこくすくすくと成長していったようです。これは私の推測にすぎませんが、ココアはどこかでタイガがお空に旅立ったことを悟って、「タイガの分も頑張って生きよう」と固い決意を決めたかもしれません。晩年、ココアの下肢状態は悪化してしまいますが、それでも諦めず強く生きる力は、タイガから与えられていたのかもしれませんね。

「タイガとココア」の書籍が出版される

 タイガが亡くなった後、二頭の命の記録として朝日新聞出版より書籍「タイガとココア」が出版されました。販売後完売となり昨年まで再販未定となっていたようですが、多くのファンの「再販希望」の声が大きくなり、SNSによる再販リクエスト活動が行われるなどしたことにより、新ぺージを追加しての「新版」としての再販(2025年11月(予定))が決まりました!

現在、各書店やASA(朝日新聞販売所)、またオンライン書店でも予約が可能となっているようです。
※以下にオンライン書店名を記載

「タイガとココア 障がいをもつアムールトラの命の記録」
 釧路市動物園 写真 / 林 るみ 著
 定価:1760円(税込)
 発売(予定)日:2025年11月7日
 A5判並製  (予)170ページ ※初版から10ページほど増えています。

晩年のココアとブレスエアーマットの存在

 15歳(2023年)をすぎたあたりから、ココアの後ろ足の動きが少しずつ悪くなってきている様子を、公式Xや一般の方のYouTube動画などで拝見していました。後ろ足は曲がりが強くなり機能しづらくなっているようでしたが、それでも、ココアは立ち上がって四肢を使って歩くことを辞めることなく、運動場を元気そうに動き回っていました。

画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より

 そして2024年12月、とうとうココアの後ろ足が立つ力を失い、引きずって歩くようになってしまいました。そのことで、皮膚に擦り傷ができてしまっていました。以下、釧路市動物園による「ココアの経過」です。

《経過について》釧路市動物園公式サイトより

  • 2024年12月末
    立てなくなる日が増える。便秘と食欲減退を同時に発症。皮膚の洗浄、マット増設などで生活の質の維持に努める
  • 2025年1月下旬       
    自力で放飼場へ出る等改善の兆しが見られるが、後肢での起立は困難で引きずって移動するため、東洋紡エムシー株式会社より、床ずれ・擦り傷軽減用のマットを提供していただく。
  • 3月中旬      
    提供されたマットに慣れ、マット上で過ごす時間が増える。床ずれや擦り傷が改善される。食欲も回復。
  • 4月8日    
    3月末から再び食欲減退、移動困難及び活力低下となったため、4月8日に展示を中止し、体調管理と治療に専念。
  • 4月22日     回復傾向が見られ、展示再開(時間限定:午後3時~午後4時30分(閉園)まで)
  • 6月7日       姿勢を変えるだけで疲労が見え始める。
  • 6月12日     食欲低下傾向。食べはするが、寝たまま食べる。
  • 6月17日     食欲廃絶。展示中止。
  • 6月18日     朝から元気なし。昼以降、状態悪化。数回嘔吐。
  • 6月18日 19時20分頃 担当飼育員が異変に気付き応急処置をするも反応無し。
  • 6月18日 19時24分 獣医師が死亡確認。

経過にもあるとおり、「東洋紡エムシー」様より釧路市動物園に、寝装具や新幹線の座席シートなどの素材として認知されている「ブレスエアー」®という素材で作られた「マット」が寄贈されたそうです。

寄付されたマット
画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より
スタッフさんによる衛生面を考慮した手作りでのシートカバーづけ
画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より
ココアが使用をしていたマット(裏側)
画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より

マットの上で休むココア
画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より

 マットのおかげでココアは心地よく休める場所ができ、傷の治療も続けられ、ココアは食欲はあり元気そうな姿を見せてくれていたようです。

ココア17歳を迎える

 そんな中、2025年4月に容態が悪化し、展示が一時中止となり、その後体調の良い日時間帯のみ短時間の展示が再開される容態が続く中、2025年5月24日ココアは17歳の誕生日を迎えました。「17」と描かれたお肉をアムアムと美味しそうに食べていました。写真は、いつもと様相が違うお肉を不思議そうに眺めている「ココア」です。

画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より
画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より

 5月24日「ココアのお誕生日会」が開催され、多くの人が参加し心からココアの17歳をお祝いしました。その姿に涙する人も少なくなく、多くのファンがココアを応援し、健康状態を心配すると同時に、自分自身がココアに励まされ、救われ、支えられていると、SNSやテレビのインタビューで答える人が後を絶ちませんでした。日本中のファンがココアを愛し、そしてココアに励まされていたのです。

タイガとココアが誕生した当時の元園長によると「ココア凄い!よくここまで、よくぞここまで」(ココア17歳の誕生会でのスピーチより)それがココアへの思いとのことでした。スピーチを聞いていた私自身もまったく同じ気持ちを抱いていました。

釧路市動物園公式YouTubeアカウント「アムールトラ「ココア」17才の誕生会(2025.5.24)」

ココアお空に旅立つ

 誕生日を迎えた後、ココアは引き続き足の傷の治療を続けながら、また体調を見ながらの短時間展示が続いていました。その時間を楽しみに多くの来園者の方が園を訪れ、ココアのバックヤードの前で扉(シャッター)が開くのをじっと待ち「やっとココアに会えた」「ココアは今日も元気だったよ」といった喜びの声がSNSでも多く発信されていました。

 そんな中、6月17日公式サイトにて「ココアの展示中止」の発表がありました。

(釧路市動物園公式サイトより引用)
■アムールトラ「ココア」展示中止について<続報>(2025年6月17日更新))

日ごろの治療やリハビリに協力的だったココアですが、最近は日によって動くことよりも「寝ること」を選択することが多くなりました。ココアの負担にならないよう、そういった日はリハビリなどを控えめに、もしくは中止にしていたのですが、体を動かす機会が減ることにより、体力の向上が難しくなってきました。それに伴い、体調が急変してもすぐに対応できる体制を整えるため、展示を中止するという判断に至っております。

 そして、その翌々日の2025年6月19日 釧路市動物園公式サイトにてココアがお空に旅立ったとのお知らせが出されました。亡くなったのは、展示中止の発表の翌日2025年6月18日(水曜日)午後7時24分でした。獣医師の方、そしてスタッフの皆様の長年のご経験からの「展示中止」の判断に大変畏れ多く心から敬意を表します。

 ここからは、ココアのお別れ会でココアの担当赤坂氏が語っていたお話になりますが、亡くなった当日の朝は、声掛けをしたら首を傾けて応える様子があったようです。ところが午後から体調が急変し、嘔吐が続き、獣医師と担当の赤坂氏により応急処置を施し、一度は容態安定したように見えるも、夜になり再度容態急変、心肺停止となり心臓マッサージを施すも、ココアの容態が戻ることはなく午後7時24分逝去しました。

 最後の応急処置の際、まだ体温があるココアに赤坂氏は、「まだ温かみがあるからこそ、もう少し頑張ってほしいという気持ちと、これ以上ココアに苦しい想いをさせたくない、苦しみを与えたくない」という気持ちが入り混じっていたと語っています。また、亡くなったココアに赤坂氏がかけた言葉は「ここまで頑張ってくれたね、凄いね、一緒に頑張ってくれてありがとう、お疲れさまでした」だったということです。担当スタッフにしかできない、担当スタッフだからこそできる、一秒一刻を争う状況での詳しい状況を、大変お辛い中お話くださいました。担当スタッフの赤坂さん本当にお疲れ様でした。

 前園長山口氏および担当の赤坂氏ともに「ココアの姿は今はもうここにはなくても、タイガとココアが生きた証は自分たちにとって最大の宝でありかけがえのないもの。彼らが教えてくれた命の尊さ、儚さを釧路市動物園として全力で伝えていきたい」といった内容のことを語っていらっしゃいました。私自身もその言葉を深く受け止め、今後動物園に限らず野生、畜産ふくめ全動物たちを思い、関わっていこうと強く心に刻みました。

 なお、後日解剖結果から死因は「心不全(老衰)」とのことでした。ココア生き抜いたんだね。本当に本当にお疲れ様。

亡くなる1週間ほど前のココア
(画像:釧路市動物園公式サイト「タイガとココア」より)

ココアお別れ会「ありがとうココア」

  2025年7月21日 釧路市動物園にてココアお別れ会「ありがとうココア」が執り行われました。

(画像:釧路市動物園公式サイト「2025年7月の釧路市動物園ニュース」より)

■釧路市動物園公式YouTubeアカウント「2025.7.21 アムールトラ・ココアお別れ会「ありがとうココア」

 お別れ会には、300人以上の一般の方が参加したそうです。ココアへ床ずれ防止用のマット「ブレスエアー」を寄贈された「東洋紡エムシー株式会社」代表取締役社長執行役員CEO森重氏、釧路市長の鶴間氏、タイガとココアが生まれた当時に山口園長(当時)からの連絡を当時の市長に連携をとるなどした釧路市教育委員会教育長岡部氏、そしてタイガとココアが生まれた当時の園長山口氏、ココアの最後の担当スタッフ赤坂氏による、ココアのその時々の様子やココアへの想いが語られました。

 当日、ココアのスタッフの方手作りの「スライドショー」が放映され、参加した人々には、「ありがとうココア」記念カードが配布されたそうです。
「ありがとうココア」カードは、釧路市動物園サイトの「2025年7月の釧路市動物園ニュース>2025年7月21日(月曜日・祝日)アムールトラ・ココアお別れ会「ありがとうココア」を執り行いました」内のリンクからPDFでダウンロードができるようになっています。(URL:https://www.city.kushiro.lg.jp/zoo/zoonews/1016306/1016925.html

釧路市動物園公式YouTubeアカウントより スタッフの方手作りの「スライドショー」

最後に

 私が「ココア」を知ったのは2022年の頃でした。
病気を発症し、仕事を休んで療養する中で「ココア」の存在をYouTubeで知りました。

自身の身体の不調、障害と、ココアの身体の障害が重なり、ココアを見ているとまるで自分を見ているようで、決して諦めないココアの強さ、いつも優しい表情で穏やかにすごしているココアの姿から、日々言葉にならないほどの勇気と励ましをもらいました。どれだけの力をいただいたか計り知れません。そこで、ココアへの愛おしい想いと、ココアへの感謝の気持ちをこめて、自作で楽曲をつくりました(AIを活用)。
※動画内の画像は、釧路市動物園さまに許諾申請し許可をいただき使用させていただいております。

 楽曲は、KAORITO PROJECTサイトで販売を開始すると同時に、「釧路市動物園スタッフ・関係者のみなさま」にも、ココアをここまでお世話してくださったこと、ファンへのお心遣いなどに対して心から感謝の意を伝えたく、釧路市動物園様・元園長様・最後までココアをお世話してくださった担当スタッフ様に、ココアの歌を「CD(全5曲)」と「DVD(全3曲)」とお手紙を添えて送らせていただきました。

 すると、なんということでしょうか。ある日、家のポストに投函された手紙を手にすると、そこには「釧路市動物園 元園長山口氏」の名前が手書きで書かれた封筒が・・・その瞬間、驚きと感動で手が震えました。お手紙をいただけるなど心にも思っていなかったからです。改めて、元園長山口様ご丁寧にお手紙を書いてくださりありがとうございました。確かに受け取りお手紙読ませていただきました、心よりお礼申し上げます。

 ココアに癒され励まされた日々、そして釧路市動物園とスタッフの皆様からもこのような形で嬉しいプレゼントを頂き、改めて感謝の気持ちは伝えても伝えても伝えきれません。この場を借りて、改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございます。

釧路市動物園さまに送らせていただいたCD/DVDとは、映像構成は全く同じではありませんが、YouTubeに公開していた一部の動画をご紹介させていただきます。

ココアいつまでも~奇跡のアムールトラ~

▲販売サイト KAORITO PROJECT

ココア17歳!お誕生日おめでとう!

▲販売サイト KAORITO PROJECT

ココアとタイガの歌~命~

 ▲販売サイト KAORITO PROJECT

 こうしている今も、多くの動物園に病気や障害を持った子たちが、多くのスタッフの方々に支えられ今日も懸命に生きています。また動物園のみでなく、野生環境や畜産動物たちもまた、それぞれのたった一度限りの尊い命を全うしています。この記事をきっかけに、人間も動物も植物もわけへだてなく生命あるものの尊厳について、動物園のあり方について、今後の未来について、考察していただくきっかけとなりますと幸いです。

記事を最後までお読みいただきありがとうございました。
皆様にも心からお礼を申し上げます。

KAORITO(浅川香織)

■寄稿者プロフィール
KAORITO(浅川香織)
関東近郊在住。IT企業勤務や数々の新規事業立ち上げに携わった後、現在は、病気療養のかたわら2025年「KAORITO PROJECT」を立ち上げ、大好きな動物たちをテーマにした音楽や映像コンテンツ制作、グッズ販売と併せ、売上の一部を動物園に寄付する活動を行っています。

KAORITO PROJECTとは
動物たちの動物福祉・環境向上を願い年次ごとに各動物園にコンテンツやグッズ売上の一部を寄付するプロジェクトです。所属動物園には必要に応じて活動を報告、および許諾申請済となります。
◆公式YouTubeチャンネル:
https://www.youtube.com/@kaoritofamily
◆公式サイト:
https://project.kaorito.com/

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この記事を書いた人

KAORITO PROJECTとは動物たちの動物福祉・環境向上を願い年次ごとに各動物園に楽曲やグッズ売上の一部を寄付するプロジェクトです。必要に応じて各動物園に報告または許諾申請済です。