タヌキ沼からこんにちは、六(ろく)と申します。
タヌキ―「犭(けものへん)」に「里」と書いて「狸」という漢字があるように、古来から人里の近くで暮らしてきた日本では身近な哺乳類です。
ですが身近すぎる故に動物園では「なんだ、タヌキか」なんてスルーされがちなのも事実。
この記事ではそんなタヌキたちの魅力のひとつである夏毛と冬毛についてご紹介します。
あなたのタヌキ観察のきっかけになれば嬉しいです。
夏毛と冬毛のギャップに注目
下の2枚のホンドタヌキの写真を見てください。


このタヌキ、実は半年違いの同じ個体なのです。
冬毛になると毛の量が増え、いかにも「タヌキ」らしいモフモフとした姿になります。
対して同じ個体でも夏毛は随分ほっそりして見えると思います。
こちらの2枚の写真のホンドタヌキも同じ個体です。


冬は顔も体も横幅が倍くらいに見えますね。
北海道に生息しているエゾタヌキも同じ個体を見比べてみましょう。


北海道の雪と寒さに耐えるため、エゾタヌキはホンドタヌキよりさらに丸くなる個体が多いです。
このようにギャップがありすぎるせいか、夏になると「あんなに痩せちゃって、かわいそうに…」なんて声も聞こえてきますが、その姿は暑さを乗り切るためなのです。
ちなみに「タヌキ 夏毛 冬毛」で検索すると動物園公式のブログがたくさんヒットします。
動物園側も発信してくださっているので、夏毛のタヌキのことがもっと広まってほしいなと思います。
夏はすっきり夏毛で過ごし、冬はモフモフ冬毛で寒さをしのぐ。
四季のある日本の動物ならではの生存戦略ですね。
夏毛と冬毛ってどう違うの?
タヌキの体毛はダブルコートという構造をしています。
同じくイヌ科の柴犬やポメラニアンなどもダブルコートを持つ動物です。
飼い猫もダブルコートの品種がいます。
一つの毛穴から、太く硬い『オーバーコート』と細く柔らかい『アンダーコート』と呼ばれる2種類の毛が生えています。
オーバーコートよりもアンダーコートの方が一つの毛穴から生える本数が多いため、皮膚のすぐ上にみっちりとしたアンダーコートの層が、その上に疎らなオーバーコートの層ができあがります。
オーバーコートは雨や乾燥、害虫などから皮膚を守り、アンダーコートは皮膚と外気の間に空気の層を作って体温を保つ役割があります。
そして春から夏にかけて気温が上がってくると、暑さに備えてアンダーコートが抜け落ちます。
抜け方は個体によって異なり、全身が一気にボワボワになる個体や

頭から尻尾に向かって順番に換毛していく個体など、個性がさまざまです。

タヌキたちは換毛期になるとお互いに毛づくろいをして抜けたアンダーコートを体表から取り除きます。

飼育下では飼育員にブラッシングで換毛を手伝ってもらうこともあります。
そして夏が過ぎて気温が下がるようになると、再びアンダーコートが生えてくるのです。
また、秋にたくさん食べておくことで食料の少ない冬を乗り切るため、体自体も脂肪を蓄えて大きくなります。
タヌキって冬眠するの?
クマほどしっかりした冬眠はしませんが、冬になると食事量・運動量が低下し、巣穴で寝ていることが増えます。これを冬ごもりといいます。
いつくらいから冬毛になるの?
個体の年齢や動物園がある場所の気温にもよりますが、10月後半くらいから徐々に冬毛になり始めるタヌキが多いです。
ですから今のうちにぜひ夏毛のタヌキを見に行っておいてください。
寒くなってから冬毛のタヌキを見たときの感動が一段と大きくなりますよ。
今年の9月を逃すと次の夏毛は来年の夏まで見られません。
夏毛を見るなら今!なのです!
タヌキは5~7月くらいにかけて夏毛に換毛し、10月には冬に向けて準備を始めます。
タヌキが夏毛でいる期間は意外と短く、レアな姿なのです。
そして夏毛のタヌキを見たら、冬毛のタヌキも見に行ってください。
とってもモフモフです。

夏と冬で同じ個体を簡単に見に行くことができるのも、動物園のメリットのひとつだと思います。
おわりに
今回はタヌキの夏毛と冬毛についてご紹介しました。
動物園を訪れたときはぜひタヌキたちにも注目してみてください。
日本人にとって身近な存在のタヌキですが、野生動物としての彼らはロードキル(交通事故)や餌付け、農作物への被害など、人間との間の問題も抱えています。
幼いときに誤認保護され人工哺乳で育ち、人馴れしすぎてしまったために野生に返せず動物園で飼育されることになった個体もいます。
きっかけは「冬毛のタヌキって丸くてかわいい!」「夏毛と冬毛のギャップがすごい!」でもいいのです。
動物園のタヌキを通して、タヌキという種についても考えてみませんか?
アイキャッチ画像:とうふう♂(2025.01 東山動植物園からシンガポールのNight Safariへ転出)