悲願成就、ホッキョクグマ双子誕生までの道のり 〜八木山動物公園の挑戦〜
新たな命、ついに誕生

2024年12月20日、仙台市八木山動物公園で飼育されているカイ(♂)とポーラ(♀)の間に、2頭のホッキョクグマの赤ちゃんが誕生しました。日本の動物園で生まれ育ったホッキョクグマの双子は、2012年の円山動物園のマルルとポロロ以来。そして、異性の双子が日本で生育するのは初めての事例となります。
誕生直後、赤ちゃんは500〜600gという手のひらに乗るほどの大きさでした。ホッキョクグマの繁殖は非常に難しく、日本の動物園では生後30日以内に約7割が死亡すると言われています。特に初産や子育て経験の少ない母親の場合、育児放棄や事故も珍しくありません。
繁殖の壁とポーラの奮闘
ポーラはこれまでに3度の出産を経験してきましたが、いずれも育成には至りませんでした。
- 2019年:死産
- 2022年:双子が生後3日で死亡
- 2023年:生後13日で死亡
園にとっても、ポーラにとっても「30日の壁」を越えることは長年の悲願でした。2024年、ついにその壁を乗り越えたポーラは、出産直後から1日に100回以上の授乳をこなし、2頭を分け隔てなく育てました。
園長ブログでは、約600gで生まれた仔たちが2025年5月時点で30kgを超えるまで成長していることが紹介され、「ここまでのポーラの頑張りには、本当に感謝しかありません」と綴られています。
歴代ホッキョクグマの歩み

仙台市八木山動物公園でのホッキョクグマの飼育は、1965年にカナダから来園した♂シロに始まります。その後、東山動植物園から来園した♀ユキコ、カナダ出身の♂ホクト、そして園の顔として長年親しまれた♀ナナが続きました。
過去の繁殖記録では以下のような試みがありましたが、いずれも成育には至っていません。
- 1971年:シロ × ユキコ → 同日死亡
- 1995年:ホクト × ナナ → 同日死亡(双子)
- 2000年:ホクト × ナナ → 同日死亡
八木山動物公園におけるホッキョクグマの繁殖は、半世紀以上にわたり続いてきました。
現在のペア:カイとポーラ


- カイ(♂):2004年12月2日 ロシア・レニングラード動物園生まれ/2006年来園
- ポーラ(♀):2004年12月5日 セルビア・パリック動物園生まれ/2005年来園
カイはロシアの名血「ウスラーダ」と「メンシコフ」直系。ポーラもドイツ・ベルリン動物園の「アイカ」と「ロビー」を祖先に持つヨーロッパ名門血統です。国際的にも遺伝的価値の高い2頭の組み合わせであるため、双子は種の保存の観点からも非常に重要な個体群となります。
科学と環境整備によるサポート

2024年の繁殖には、北海道大学との連携による人工授精が導入されました。ホルモン測定による妊娠判定や出産時期の予測、ポーラの変化を見逃さないモニタリングが徹底され、さらに野生の巣穴を模した「産室」が設置されました。
出産当日は監視カメラ越しに鳴き声が確認され、飼育スタッフの間に歓喜の涙が広がったといいます。その後も24時間体制で母子の状態が見守られました。
成長へのステップと公開に向けた配慮
生後5か月を過ぎた双子は、一般公開に向けて屋外慣れ、水慣れ、人慣れという3段階のトレーニングを経ました。
- オスの仔は早くからプールで遊び始め、ジャンプやダイビングを披露。
- メスの仔は慎重で、ゆっくりと水に近づき、母の視線のもとで行動しました。
母ポーラは見守る育児スタイルをとり、仔たちの自発性を大切にする姿が印象的だったと園長ブログでも紹介されています。
公式ブログでは、ホッキョクグマの繁殖に関する取り組みについても詳しく紹介されています。繁殖の難しさや園としての思いが綴られており、非常に読み応えのある内容です。ぜひご覧ください。
https://www.city.sendai.jp/zoo/sns/blog/index.html
一般公開の詳細

2025年6月2日より一般公開が開始。以下のような観覧ルールが設けられています。
- 時間:午前9時15分〜11時
- 入場:10時30分まで整列完了
- 形式:一方通行、1グループあたり観覧約1分間
混雑緩和と動物たちへの負担軽減を両立するための体制で、園全体として丁寧な運営がなされています。
教育と保全の取り組み
ホッキョクグマは気候変動の影響を強く受ける生き物です。八木山動物公園では、双子の存在を通じて地球温暖化への関心を高める環境教育を積極的に行っています。園内ではSDGsに関連する学習プログラムや解説も行われ、環境省との連携による展示やワークシートの提供も行われています。
未来に向けた希望

今回の双子の誕生は、八木山動物公園にとって「悲願」の成就であり、日本のホッキョクグマ飼育の歴史に新たな一歩を刻む出来事となりました。将来的には、彼らが国内外の他園に移動し、新たな繁殖ペアを形成する可能性もあります。
双子の小さな命は、これまでの失敗と挑戦の積み重ねの上に芽生えた「希望」であり、遠く離れた北極の現実を身近に感じさせてくれる「メッセンジャー」です。
日本で唯一となる異性のホッキョクグマ双子と母ポーラの暮らしを、ぜひ仙台市八木山動物公園でご覧ください。
