クルンは今、日本では希少なカラカルです

褐色のボディに、ツンと尖った耳。猫のかわいらしさとネコ科猛獣の強さを兼ね備えたカラカル。
かつては全国各地の園にカラカルがいたと聞きます。筆者がカラカルにハマったのは2020年。Twitter(現X)で目にした、2頭の仔カラカルがじゃれ合う動画がきっかけです。
当時は日本国内の5園に6頭のカラカルがいました。筆者は「生のカラカルを見たい!」と、翌2021年その全員に会いに行きます。しかし加齢に伴い、カラカルは相次いで死亡しました。
2025年6月27日、三重県にあるごかつら池どうぶつパークのマック(オス・13歳)が惜しまれながら亡くなりました。このことにより、姫路市立動物園のクルン(メス・11歳)は日本の動物園で唯一のカラカルに。ただしその後、ごかつら池どうぶつパークでは新たな個体が迎え入れられます。クルンは約2週間だけ、日本の動物園で唯一のカラカルでした。
カラカルとはどんな動物か?

ネコ科動物の中では突出したジャンプ力が特徴で、2~3メートルもの高さまで垂直に跳び、飛ぶ鳥を捕らえることができます。動物園で実際跳んでいる姿は見られなくても、秘めた脚力を思わせるたくましい脚は観察可能です。
クルンの魅力

筆者が最初に会ったのは5年前で、クルンは6歳でした。警戒心が強く、「よく威嚇するなぁ」という印象。獣舎の手すりに近づくと「シャーッ!」と威嚇が飛びます。
お昼になるとクルンは、人が行き交うのもあまり気にせず奥の箱で寝ていることが多いです。朝と夕方に放飼場内をパトロールしていますが、日によって行動量や動きは異なります。
クルンを脅かすために観察しているわけではないので、どうしたらお互いちょうどよい距離感でいられるかな、と筆者は考えています。「猫やネコ科動物は視線が合うのを嫌う」といくつかの本には書かれており、実際、目が合うとクルンはギュッと目をつぶります。クルンに合わせて、こちらもまばたきを返しながら観察しています。
クルンには、人々の思い出に残る両親がいました
福山市立動物園にいたカール(オス)とカーラ(メス)

クルンの両親は南アフリカ共和国より来日し、広島県の福山市立動物園で暮らしていました。ぱっちりしたつり目で、オスらしいがっしりした体格をしていたカール。青い瞳が美しかったカーラ。同園で来園者に愛されていましたが、カールは2023年、カーラは2024年に相次いで亡くなります。
『美しすぎるネコ科図鑑』(小学館)にも彼らの姿が掲載されており、なんとカールは裏表紙を飾っています。カーラはファンのカメラマンが『福山市立動物園のカラカルじゃけ!』という写真集をまとめ、同園の売店でも販売されていました。

クルンの生い立ち

2014年5月31日生まれ。一人っ子。当時のYouTube動画を掘り返して見てみると、母のカーラと箱を使ってよく遊んでいたようです。2015年3月に独り立ちし、姫路市立動物園へ移籍。当時飼育されていたオスのくるりとペアにする目的がありました。姫路へ移動した当初から飼育員を威嚇する警戒心が強い個体だったようです。
(姫路市立動物園の当時のブログより:https://hcityzoo.exblog.jp/21027603/)
クルンに見る、カールとカーラの面影

クルンもぱっちりしたつり目で、お父さん似のかっこいい系の顔立ち。一方で体型はほっそり引き締まっていて、メスらしいしなやかさも持っています。カールやカーラとはまた違う、ワイルドさがクルンの魅力。手前まで来てくれることもありますが、人間が接近すると「シャーッ!」と威嚇が飛んできます。「かわいいから」と人間都合で近づいていい存在ではない、お互いの距離感を尊重する大切さを教えてくれる存在です。
クルンのいるカラカル舎から見る、現在と未来
現在の様子
姫路市立動物園は設備が老朽化しており、市では移転案が出ています。
(参考記事:https://www.asahi.com/articles/ASSDF51KGSDFPIHB00DM.html、
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kobe/20241024/2020026754.html)
とはいえ現場の飼育員さんたちが限られたリソースの中で動物たちと真剣に向き合っている様子はうかがえます。
(園の公式インスタグラム:https://www.instagram.com/himeji_city_zoo/)
かつてゾウの「姫子」がいた獣舎は、現在はアフリカタテガミヤマアラシの運動場です。

カラカル舎も、正直に言えば広いとは言い難いのが事実。しかし飼育員さんお手製の箱を積み上げ、限られたスペースの中でクルンが生き生きと安心して暮らせるよう工夫が施されています。

クルンの威嚇は怖いのか?

威嚇する=怖い、ではなく、筆者にとっては「人間も同じだよね」ということを見せてくれる存在。相手が近寄りすぎたら、警戒するのは人間も同じです。
昼間、箱で眠るクルンを見ていると、元はインドア派だった自分となんだか似ているな、と感じます。もちろん、カラカルと人間とでは体のつくりや元々の社会性、捕食の仕方などあらゆることが違いますが。自分の空間を安全に保ちたいのは誰だって同じです。
夕方、寝室への収容前になると、高めの位置に渡した板を歩いて近くまでやってくることもあるクルン。近づきすぎなければ、ふわふわに丸くなっているその姿をじっくり観察することもできます。
日本で最後の1頭だったからこそ、この命が発するものを伝えたい
ごかつら池どうぶつパークのマック君の死の直後、「日本の動物園にいるカラカルはもはやクルンだけですよ」と担当飼育員さんに伝えたら、「長生きしてほしいですね」とのことでした。現在のところ食欲等に変化はなく、健康だそうです。
ただ、動物の観察歴が浅い筆者の体感としても、元気だった動物が突然逝ってしまうのは珍しくないこと。ネコ科動物が好きな方や、カラカルに少しでも興味のある方は、ぜひ姫路市立動物園へ。お城の観光ついでにも行けますよ。適度な距離感でクルンを見守ってほしいと願っております。
