小さな島国の隠れた魅力とは?
オーストラリアから東に約2,200km、南大平洋に浮かぶ小さな島国・ニュージーランド。
総数が人口よりも多いヒツジたちが駆ける牧歌的な風景、山脈や斜面の織り成す雄大な自然環境、現代にも残り続けるマオリ族の伝統文化、スポーツでは世界的に有名な国家代表ラグビーチーム「オールブラックス」など、他の国にも比肩しうるさまざまな魅力にあふれています。

この付近ではクレー射撃やラフティングを体験できる。
しかし、普段はあまり目立ちませんが、この国にはもう一つ大きな魅力があることをご存じですか?
それは……
数多くの固有種がいること!!
固有種とは、簡単に言えば「その国・その土地にしか生息していない種」。
特に日本やイギリスなどの大陸から離れた島国や、ボルネオ島やガラパゴス諸島といった熱帯の島々で多く見られる傾向があります。
ニュージーランドもその傾向に違わない場所ではありますが、他とは違うところがあるのです。
また、動物園も日本にあるものとは異なる特徴を持っていました。
そんなニュージーランドの生態系の詳細や、現地の動物園、そこでしか会えない動物たちの魅力を、大学時代に現地へ3ヶ月間留学していた私が、当時に想いを馳せつつ語っていきます!
では、マオリ語の挨拶から始めましょう。

Kia Ora!
独特の生態系
まずは、ニュージーランドが固有種の多い国と一口にいっても、なぜ他の島国や熱帯の島々と違うのか、その理由について触れていきます。
それは、一言でいえば「鳥類を軸とする生態系」が成立しているからなんです!
ニュージーランドは約8000万年前までオーストラリア大陸や南米大陸、南極大陸とは陸続きになっており、ゴンドワナ大陸の一部を成していました。しかし、約6000万年前に大陸から切り離され、再びつながることはありませんでした。
当時から現地にはコウモリ類やクジラ類以外の哺乳類がほとんどおらず、鳥類が生息する動物の大半を占めていたことで、彼らは天敵のいない場所で独自の進化を遂げ、分岐していき、多種多様な鳥が生態系の中心になったのです。
中にはカカポ(フクロウオウム)やキーウィなど、飛翔する能力を必要としなくなったものも現れたほど。
まさに、鳥の楽園と言っても過言ではありません!
ニュージーランドの動物園
私の留学中の滞在先は、南島最大の都市・クライストチャーチ。
現地には2ヶ所の動物園があり、授業のない週末を利用して何度か訪問しました。
その2ヶ所の共通点は、「中に入ったら別の世界」ということ!
どちらの園内も目に付くような電線や電柱などは見られず、地形的にも環境的にも園外の様子が全く見えないようになっていました。それにより、人間社会とは隔絶された感覚を覚え、動物の世界への没入感が一気に深まるわけです。
日本では、台地の上にあって外部の建物が見えない千葉市動物公園や、広大な敷地の中に再現された世界の自然環境が目を引くよこはま動物園ズーラシアが良い例です。
ウィローバンク野生動物公園 / Willowbank Wildlife Reserve
住宅街の北にある森の中におかれた小さな動物園。


入口の建物はカフェやお土産ショップなどを兼ねたビジターセンターのようなもので、そこを出てみれば、一面が樹木に囲まれた、野生動物の世界でした。
園路もアスファルト舗装のない自然の道がほとんどで、場所によっては獣道を歩いているような感じです。
・ルリコンゴウインコ ・インドホシガメ
・フサオマキザル ・ケア
・カピバラ ・カカ
・エミュー ・タカへ
・ダマジカ ・キタジマキーウィ
・コツメカワウソ ・ムカシトカゲ
・ヒョウモンガメ ・アオヤマガモ
・ワオキツネザル ・カカリキ
・フクロテナガザル ・アカオクロオウム
・フクロギツネ ・モモイロインコ
・インドクジャク etc…
展示場は牧柵や金網を用いた手作り感満載のものが多く、自然の中にもアットホームさがあります。
というのも、同園はマイケル・ウィリスという男性とその妻が1974年に創設し、40年以上もその家系によって運営され続けている、歴史ある民営の動物園だからなのです。




当初は普通の小さな動物園でしたが、ある時にウィリス氏がニュージーランド固有種の保全に興味を持ち始めてからは、その方面に特化していき、現在は国内最大の固有種繁殖・保全の拠点になっています。
その実績は、政府および自然保護局にも認められているほどとのこと。



ニュージーランドでもわずか2ヶ所しかないタカへに会える動物園としても注目を集めているそうな。
オラナ・ワイルドライフパーク / Orana Wildlife Park
郊外にある、柵や網を極力使わない展示理念「オープン・コンセプト」を最大のウリとしている動物園。


まず、入ってみてすぐ思ったことが……
すっげえ広い!!
森の中にあったウィローバンクとは正反対に、こちらはあまり植物が密集していないため非常に広大に感じられ、まるでアフリカの草原にでもやってきたかのような雰囲気がありました。
実際、敷地面積は約80ヘクタールとズーラシアの倍近く。さらにはその中には、アフリカに生息するものを中心に90種を超える動物が暮らしているのだから、なおさら驚きです。
・ライオン ・キタジマキーウィ
・キリン ・ムカシトカゲ
・チーター ・ケア
・ミーアキャット ・アオヤマガモ
・リカオン ・レースオオトカゲ
・ケープヤマアラシ ・タスマニアデビル
・サバンナシマウマ ・アカクビワラビー
・ウォーターバック ・スマトラトラ
・スプリングボック ・スイギュウ
・ニシゴリラ ・アメリカバイソン
・ミナミシロサイ etc…




展示場一つ一つもスケールがとても大きく、まるでサファリパーク。特にシロサイ舎は日本人の動物園ガチ勢は誰もが大口をあんぐりと開けてしまうだろうと思うほどでした。
野生と同じような空間で悠々と過ごす動物たちの姿は、とても美しく感じられます。





しかもこれがたった3頭のサイだけのスペースということを知って、眼玉が飛び出しそうなほどビックリしました。
園内はシャトルバスが周遊しているため、行きたい展示場が離れている時に楽に移動が可能。
また、曜日や時間帯によって内容や種は違いますが、飼育員による動物ガイドも毎日行われているようです。例えば、キリンのガイドではやぐらに登ってエサを与えることができるのだとか。
私の出会った固有種たち
ここからは、私が動物園で出会ったニュージーランドの固有種たちから、7種類を紹介していきます。



当時はカメラを持ってなかったため、スマホ写真や引用でお送りします。
キタジマキーウィ


ニュージーランドの代名詞とも言える鳥・キーウィ!
夜行性で、地面や倒木などにクチバシを差し込んだりつついたりして食べ物を探します。実は、体サイズに対する卵の大きさが世界で最も大きいという特徴も。
皆さんも現地に行ったら必ず見たいし写真にも収めたいと考える動物だと思います。しかし……
動物園では撮影禁止!!
というのも、キーウィは非常に神経質な動物で、わずかな物音や光にもとても敏感。
ストレスを最大限まで減らすために、静かに観覧しなければならず、撮影も禁止されているのです。
キーウィは、ニュージーランドの象徴として国民からもとても愛されています。それも、国民の砕けた愛称であったり、2ドル硬貨にキーウィが描かれていたり、さらには空軍のロゴにもなっているほど。
動物園や保護センターでも、野生に極限まで近づけた環境で大切に飼育されており、政府および自然保護局主導のキーウィ繁殖・野生復帰プロジェクトに協力しているところもあります。
ウィローバンク野生動物公園では、ガラスや網が使われておらず、キーウィのいる夜の森の中をぬって歩くような、非常に臨場感の高い展示場になっています。
それは動物福祉の観点からすれば驚嘆の一言で、私も「えっ!?これがキーウィだけのための施設なのぉ!?」と目を疑いました。まさしく、それまで持っていた常識が覆されるような素晴らしい展示だったのです。


キーウィが好きな皆さんにはぜひ、ウィローバンクで野生と同様の環境でいきいきと過ごす彼らの姿を探し、その目に焼き付けていただきたいですね!
ちなみに、オラナ・ワイルドライフパークでも、ガラス越しではありますがキーウィの姿を見られます。
タカヘ


現存する中では世界最大のクイナの仲間です。
他のクイナに比べてがっしりとした体格と、傾斜の多い山林での暮らしに適した太い脚が特徴。
同じクイナ科で、現地では害鳥とされるセイケイとは見た目が瓜二つ。
実際、害鳥駆除隊が、セイケイと間違えてタカへを射殺してしまったという事例があるほどです。




そんな彼らは、18世紀末から始まったイギリスによるニュージーランド入植による環境破壊や、イギリス人の持ち込んだネコやオコジョの影響で、一度は絶滅したと思われるほど個体数が減ってしまいました。
第二次世界大戦の終結から間もない1948年にわずかに生き残っていたことが判明すると、保護区が設けられるなど懸命な保全の取り組みがなされ、現在は約500羽まで個体数が回復しています。
飼育下繁殖の取り組みもありますが、ニュージーランド以外の動物園では飼育されていません。つまり正真正銘、現地でしか会うことのできない種です!
ニュージーランドを訪れた際には必ず、彼らに会える動物園や保護区に行くことをお勧めします!



タカへはニュージーランドで私が最も会いたかった動物です。
ケア(ミヤマオウム)


ニュージーランドの南島にのみ生息しているオウムの仲間です。
オウムとしては唯一の高山帯に暮らす種で、ふわふわとした羽毛を持っているため、寒さもへっちゃら!
現地ではキーウィと同じくらい人々にとって馴染み深い鳥で、動物園では当たり前のように通り抜け式の展示場で見ることができるのですが……
実は、多くの来園者にとっては困ったことがひとつ。
肩やカバンにとまって、イタズラするんですよぉ!!
具体的には、カバンのチャックを開けて中身をあさろうとしたり、頭を軽くつついてきたりしてきます。
というのも、彼らは「世界一賢い鳥」とされるほど高い知能や、旺盛な好奇心を持っているからなんです。
しかし、イタズラには困っても、固有種が肩にとまるというのはおそらくニュージーランドでしかできない非常に貴重な体験。
私はそれを利用して、スマホでツーショット撮影しちゃいました!






ちなみに、ケアは今回紹介している動物の中で唯一、日本でも会うことができます。
2025年9月現在、那須どうぶつ王国(栃木県)と掛川花鳥園(静岡県)の2ヶ所で飼育されているので、お近くに住んでいる方はぜひ足を運んでみてください!
カカ


ケアと同じ科に属し、見た目もそっくりなオウムの仲間。
ケアよりも標高の低い場所にあるニュージーランドブナやマキの木で構成された原生林に暮らしており、オスの方がより大きく、強く湾曲したクチバシを持っています。
彼らは、果実や花の密、樹液、甘露(一部の昆虫が分泌する甘い液体)など、甘いものが大好物!
舌もブラシのような形になっているため、果汁や樹液をほとんど残さず舐めとることができるのです。
そんなカカですが、実は私がニュージーランドで出会った固有種の中で……
いっちばん撮影に苦戦しました!




ケアのように展示場の中に入れるわけではなく、どうしても網越しでの撮影……しかもスマホだったので網抜き撮影ができなーい!なかなかいい位置に飛んでこないものだから、ピントも合わなーい!
撮るのに大苦戦したこの時が、私がカメラを買おうと思った一つのきっかけにもなりました。



あの時カメラがあれば、もっといい写真が撮れたはず!
ちなみに、こちらもタカへと同じく、ニュージーランド以外の動物園では会うことができません。
現地の動物園に行くことがあったら、ケアと比較しながら観察してみてください。
ニュージーランドバト


虹色に輝く美しい頭部を持つ野生のハト。
体長は約50cmと大型で、分類としてはアオバトに近いとされているようです。
また、ハト科としては珍しい果実食性で、クスノキ科やヤシ科の木の実を好んで食べます。
ニュージーランドの鳥としては唯一、直径1cmを超える果実を丸呑みすることができるため、その手の在来植物の種子散布にも関係しており、現地の生態系において非常に重要な地位にある動物です。


マオリ族にとっても馴染み深く、かつては彼らにとって主要な食糧源の一つとなっていましたが、現在は法律によって狩猟が禁止されています。
しかし「マオリ族の伝統を否定することになる」という主張もあり、物議を醸しているようです。
動物園では、木の上にとまっていることが多いですが、体が大きいので、枝葉の中に紛れたりしていなければすぐに見つけられるでしょう。
近くで見ると「うおっ、でっかいハト!」という言葉が自然に出て来ると思います。
アオヤマガモ


青みがかった灰色に赤い斑紋という独特の体色が美しいカモ。
渓流に暮らしており、流れの速い川の中でも力強く泳ぐことができます。
マオリ語では“Whio(フィオ)”と呼ばれていますが、これはオスが竹笛のような甲高い鳴き声をしており、それを擬音に当てはめたことが由来です。
かつては広範囲に分布しており、低地の川や海岸周辺でも見ることができました。しかし、移民の持ち込んだオコジョに襲われたり、外来種のマスに食糧源となるカゲロウやユスリカの幼虫を食べ尽くされてしまったりなどして、現在は絶滅の危機に瀕しています。


キーウィと同じく、国家を挙げた繁殖・野生復帰プロジェクトが組まれていますが、こちらは国内でも認可の降りている動物園や保護施設でのみ飼育されているようです。
私の訪れた2ヶ所の動物園はどちらも認可を受けていました。
動物園でも非常に素通りされてしまいやすいカモの仲間ですが、ニュージーランドの動物園に行かれる際は少なくともこの美しいカモには目を留めていただきたいですね。
ムカシトカゲ


原始的な形質を持つ、現存する世界最古の爬虫類。
恐竜の生きていたジュラ紀から約2億年間、進化の過程でほとんど姿を変えていないため、シーラカンスやオウムガイと並んで「生きた化石」の代表格とされています。
名前にトカゲとついていますが、分類としては現代のトカゲや他の爬虫類とは全く異なる系統に属しており、進化の早い段階でヘビやトカゲと分岐して誕生したと考えられているようです。
英語では“Tuatara(トゥアタラ)”と呼びますが、これはマオリ語で「背中のトゲ」を指す言葉が由来です。
比較的寒冷な気候のニュージーランドで過ごしてきたためか、多くの爬虫類が耐えられない5〜10℃でも活動することができ、それより寒くなると冬眠します。
また、繁殖サイクルが非常に緩慢で、性成熟に少なくとも10年はかかり、メスの交配と産卵も4年に一度。また、成長速度も爬虫類の中で最も遅く、35歳ほどまでは成長を続けるとされているようです。
その成長の遅さゆえか、私の見た個体はどれも……
小っさ!!
性成熟にすら至っていないとみられるものばかり。




本音を言えば成体に会いたかったのですが、飼育下繁殖はニュージーランド以外では行われていないため、若い個体に会えたことはむしろ幸運だったのかもしれません。
ムカシトカゲは現地以外の動物園でも繁殖計画なしで飼育・公開されており、サンディエゴ動物園(アメリカ)やチェスター動物園(イギリス)、タロンガ動物園(オーストラリア)などで会うことができます。
最後に
いかがだったでしょうか?
私のニュージーランドへの旅の主目的はあくまで語学留学だったのですが、現地の生態系や動物たちのことについて知り、動物学に関する視野を広げるという意味でも非常に良い経験となりました。
むしろ、数回動物園に行っただけでは知ることのできない部分もまだまだ大きいと思いますし、当時ほど長い時間滞在はできないのだとしても、いつかもう一度行きたいと考えています。
皆さんも、この記事を読んでニュージーランドの生態系や動物たちに興味を持っていただけたでしょうか?
もしそうであったら、ぜひ旅程を組んで現地を訪れてみてください。
きっと、他では得られない学びがありますよ!
●ウィローバンク野生動物公園(https://www.willowbank.co.nz/)
●オラナ・ワイルドライフパーク(https://www.oranawildlifepark.co.nz/)
●ニュージーランド自然保護局(https://www.doc.govt.nz/)
●ニュージーランド・トラベル(https://www.newzealand.com/jp/)
●New Zealand Birds Online(https://www.nzbirdsonline.org.nz/)