このシリーズ、もう忘れ去られてるんじゃないでしょうか…w
野生と飼育下の状況を比較するこの企画、今回はアフリカゾウでやります!!
おそらく動物園との差が一番すごい種になるんじゃないかと思います…!!原生地アフリカでの保護の様子も併せてお送りしますので、ぜひ最後までご覧ください!!!
↓前回の記事はこちら!!

そもそもアフリカゾウって何だっけ?

アフリカゾウ(学名:Loxodonta africana)は長鼻目ゾウ科アフリカゾウ属に分類される、最大の陸棲動物です。大きな個体では7トンや8トンになることもあるとか…寿命も60年から70年と長く、家族の絆も強い知性豊かな生き物です。アフリカゾウ属には二種類のゾウが分類されますが、今回は草原や砂漠にすむアフリカゾウ(サバンナゾウ)に注目してお話ししていきます!もう片方のアフリカゾウ属であるマルミミゾウについては別の記事が出る予定です!
行動における特徴としては、野生の個体はとても広大な距離を移動し、乾季には水を求めて何十キロもの距離を移動します。家族の絆が強いということから派生して、とても複雑な社会性を持つ生き物でもあります。年長のメスをリーダーとする群れを形成し、メスは一生を同じ群れで過ごします。
動物園でのアフリカゾウ

動物好きでSNSなどを見ている方は、何度かゾウの飼育が炎上していることを見たことがあるのではないでしょうか…?前述のとおり、ゾウは社会性が強く群れで過ごすうえ、広大な距離を歩き回ってご飯を探します。
しかし、現状の動物園(少なくとも国内の動物園)は明らかに狭い敷地である場合も多く、1頭のみで飼育されている場合も多いです。お察しのとおり、不適切な環境です…

その結果、かなりのストレスがかかっていたり、常同行動など異常行動が散見されたりしています。
現在、国内多くの動物園でエンリッチメントの導入や環境の改善が進められていますが、まだ世界基準にすら達していないのが現状です。
野生でのゾウ

野生のアフリカゾウは多くの時間を採食に費やし、かなりの距離を移動します。Wyatt and Eltringhamや Lindsay などによる研究によれば日中の行動時間における50%近くを移動しながら採食することに費やしているとのことです。
そのため、年間での行動範囲はおよそ100~300 km²という研究結果もあります。だいたい琵琶湖の半分近くの広さになるそうです…

琵琶湖半分の広さを徒歩で移動し続けるとは…
とんでもない行動範囲です…
また、社会構造が複雑で、母親を中心とした群れを形成し、長寿であること、学習行動が発達していることが知られています。群れが再会する際の“挨拶 (greeting)”行動にも視・聴・嗅・触覚を複合して使うことが報告されており、社会的な関係性を確認する役割があるとされています。ケニアのAmboseli Elephant Research Project など、多くの団体が長期調査プロジェクトを通じて年齢構造・個体間の関係・個体識別などのデータを収集しています。
- 「コアグループ」
血縁の家族からなる10頭程度の群れ。ファミリーなどとも呼ばれ、群れの基本単位となる。 - 「ボンドグループ」
複数の家族からなる50頭程度の群れ。繁殖期などに形成され、オスも所属する。 - 「クラングループ」
複数のボンドグループが集まって形成される巨大な群れ。開けた地域や餌の豊富な場所では数百頭規模になることも! - 「エマージェンシーグループ」
密猟者などに遭遇した場合、数頭や母子のみなど、一時的に群れが散開する事例が報告されています。
アフリカゾウ(Loxodonta africana)における社会行動と生息地の親しみやすさの関係
Wittemyer et al. (2005)
僕が南アフリカで実際に遭遇した野生のアフリカゾウは約10頭!
1歳程度の子供を含むメス群れと、放浪オスです。


メス群れと遭遇したときは大雨の中でしたが、はしゃぐ子供を母親や兄弟たちが囲んで過ごす瞬間はとても穏やかな時間でした。家族の絆を感じさせられましたね。個人的に小さな鼻を使って雨を避ける子ゾウが本当にかわいかった…
また、絶えず低いエンジン音のような超低音の声が聞こえていました。個体間の会話はほとんど可聴域外の超低周波によるものであり、僕たち人間の耳には聞こえないものと思っていたので新たな発見になりました。




オスとの遭遇は現場の空気が一気に変わりました。まずレンジャーの方が急いでエンジンを止め、



死にたくなければ絶対に大きな音を立てるな!急に動くな!
リラックスして、静かにすれ違うぞ!
と警告されました。オスの個体は軽くても体重6トン…体高3メートルあることもざらにあります。普通にサファリカーをひっくり返せるのです…!!
マストと呼ばれる繁殖期は気が荒くなるため、写真のような狭い通路で遭遇したときは急いで引き返すそうです。
僕のInstagramにこの個体とすれ違う瞬間を動画で上げてあります!
現場の緊張感、足音、至近距離1.5mをオスのアフリカゾウが通り過ぎる感覚をぜひ味わってみてください!
アフリカの保護施設“HERD”でのアフリカゾウ


僕がアフリカを訪れたとき、このHERD(Hoedspruit Elephant Rehabilitation and Development)をいっしょに訪れました。ここでは親を亡くした孤児や、ジンバブエなどで行き場を無くしたゾウ達を16頭(25年2月時点)保護しています。
この団体の特徴は、ゾウ達を広大な保護区の中で飼育していること!保護区の中を16頭の群れが自由に生活しています。そこにレンジャーが同伴し、ライオンやハイエナから護衛し、保護区域外に出ないように誘導しています。ほぼ野生下と同様の暮らしをしているため、異常行動が全く見られないこともすごかったですね…


そして一番驚いたのは飼育員の役割を果たすレンジャーのやる気のすごさ!
比較的気性が荒く危険とされるアフリカゾウを直接飼育している上に、コミュニケーションもとっています。
そして夜間を過ごす厩舎内で一緒に過ごすグループも、個体同士の関係性を見極め、何かあればすぐに対応しています。日中こんなに広大な敷地で暮らしているんだから厩舎はそんなに豪華じゃないだろうと思ったら大間違い!大きな水飲み場に大型家畜用ブラシまで完備する飛行機の格納庫のように大きな厩舎を備えていました。
しかも全部寄付によって成り立っています…すごすぎる…



なぜここまでの活動を?



ゾウが好きだから!
日本も保護活動にこれくらいの情熱を持てたらいいですね…!
頼れるボス!「セバクウェ」


体重7トン越えの巨ゾウで、その巨体と太く緩やかにカーブした大きな牙ですぐに見分けられます。ジンバブエからきたオスゾウで、群れを守るリーダーとしていつもみんなを後ろから見守っています。「アマルーラ・リキュール」というお酒のラッピングのモデルの仕事もしてたり…


“始まりの子ゾウ”「ジャブラニ」


この保護団体の系列にあるホテルに「キャンプ・ジャブラニ」というものがあります。この施設はジャブラニの名前を使っているんですね!
この保護施設で一番最初に保護されたゾウで、当時は子供でした。
今では立派なオスゾウとして、セバクウェにリーダーの決戦を申し込んだそうですが、負けてちょっと気まずいらしい…
幻のピンクのゾウ「カニーサ」


カニーサはとても珍しい“アルビノ”のゾウです!アルビノという特性上、他の個体より日光に弱いのだとか。
しかしほかの子供とも仲良く、池に沈めたり沈められたり…w
現在は写真のように体色が変化してきていますが、生まれた当初は全身ピンクでとてもかわいらしかったそうです!
動物園と野生の個体数


日本においてアフリカゾウは、12の動物園で21頭が飼育されています。
なお、その中でもオスは八木山動物公園のベン、多摩動物公園の砥夢、安佐動物公園のタカの3頭のみです。
国内での絶滅がかなり危ぶまれている動物です。2025年時点での最年少は愛媛県のとべ動物園で飼育されている砥愛で、現在12歳です。アフリカゾウの寿命が60~70年だとすると、今後繁殖が無ければ50~60年で日本からアフリカゾウは姿を消します。
しかし、野生での個体数は徐々に回復傾向にあります。アフリカ北部ではいまだに密猟が多く発生している個体群も多くありますが、ケニアやタンザニア、南アフリカなどでは回復傾向がみられるようです。
ただ、ボツワナやジンバブエでは個体数が増えすぎているという問題が起きています。
手厚い保護による成果ではありますが、なかなか自然の捕食者に狩られにくいゾウは生態系による個体数調整が作用しにくいようです…この問題によって、現地に住んでいる方々の民家や農地を荒らしたり人への直接被害も発生しているそうです。



HERDにいるジンバブエから来たゾウ達はこういう背景があって保護されたんですね
多くの団体が殺処分などの悲しい対応を取らなくて済むように努力していますが、それでも軋轢の根本的解決になっていないのが現状です。
↓ジンバブエのゾウ問題について取り上げてますので、ぜひこちらもご覧ください!


みんな大好きなゾウ、彼らがおかれている状況はかなり複雑なことがわかっていただけたでしょうか?
社会的な絆や知性に豊かで、可愛く、様々な魅力にあふれるゾウ達に少しでも知ってもらえたら嬉しいです!
そして、上田先生もおっしゃってましたが、いつかはアフリカを訪れてみてください!!
今回取り上げたアフリカの「HERD」は全額寄付によって活動を行っています。少しでも活動したい!役に立ちたい!という方はこちらのリンクから公式ページをご覧ください!ゾウを養子にすることもできますよ!!↓
HERD 公式ページ https://herd.org.za/
寄付ページ https://herd.org.za/donate/
今回はアフリカのサバンナに住むサバンナゾウについて取り上げましたが、ジャングルに住むマルミミゾウについても記事が投稿される予定です!お楽しみに!
サンディエゴ動物園野生動物アライアンスライブラリー アフリカゾウ