絶滅危惧種の秘境・東南アジア
「東南アジア」と聞いたら、皆さんはどんな自然環境や動物を思い浮かべるでしょうか?
歴史を感じさせる寺院遺跡、ゾウの背に乗って移動する人々。
切り立った崖や背の高い草むらなど、様々な地形に富んだ熱帯雨林。
巨大な樹木の中に紛れ込む美しい鳥のさえずりや、サルの鳴き声。
文化的な風景や、雄大な自然にあふれている東南アジアですが、そこは様々な動物たちが暮らす秘境でもあります。
その大半はなんと…
絶滅危惧種です!!
彼らを追い込んでいるのは人間ですが、彼らとその住処を守るのもまた人間。
動物園や保護団体は今日も保全活動や教育普及にいそしんでいます。
今回は、私たち人間の手で守るべき東南アジアの素敵な動物たちを紹介します。
第1回で内容について複数のご意見をいただいたため、それらも取り入れて以下の項目を追加しました!
・保全状況
IUCN(国際自然保護連合)レッドリストにおける保全状況の格付け。
・どこで会えるの?
記事投稿時点で、その動物がいる日本動物園水族館協会(JAZA)の加盟園館の一覧。
第1回についても今後、上記の内容を追記する予定です。
ビントロング / Binturong

分類:食肉目 ジャコウネコ科 ビントロング属
分布:インド北東部、カンボジア、タイなど
保全状況:危急(VU)
熱帯雨林に暮らしているジャコウネコの仲間です。
体長は約1.5~2mで、ジャコウネコとしては世界最大級の種になります。
体が黒く、クマにネコにも似ているように思えるその外見から「クマネコ(熊猫)」とも呼ばれています。

体長のおよそ半分近くを占める長い尻尾が特徴で、これを器用に用いて上手に木登りをしたり、枝にぶら下がることができます。樹上性の強い動物ですが、地上に降りることも珍しくはなく、食べ物を探すために川や池を泳ぐこともあるようです。
また、果実を好んで食べるため、生態系においてはゾウやテナガザルと同じく、種子散布者として植物の拡大に貢献しています。
Taisei野生ではイチジクの実を主食としています。


主に森林開発による生息域の破壊によって絶滅の危機に瀕しており、具体的な個体数こそ把握されてはいませんが、過去30年間で3割以上減ってしまったと言われています。
前述のとおり、種子散布者としての側面もあるため、ビントロングが絶滅すると、イチジクをはじめとした複数の植物の減少・絶滅や、それに伴う生態系の崩壊にもつながってしまうのです。
ビントロングからは、ポップコーンやアーモンドに似た独特の臭いがしますが、これは2-アセチル-1-ピロリンという物質によるものと考えられています。
ポップコーンの香りの源であるこれは、トウモロコシのタンパク質と糖が熱によって化学反応を起こすことで発生します。ビントロングの場合、彼らの尿が腸や皮膚、毛皮などにいる微生物と反応することで生成されると推測されているようです。
- 岩手サファリパーク
- 那須どうぶつ王国
- 那須サファリパーク
- 群馬サファリパーク
- 市原ぞうの国
- 茶臼山動物園
- 伊豆シャボテン動物公園
- 東山動植物園
- 王子動物園
- 神戸どうぶつ王国
- 秋吉台サファリランド
- 徳山動物園
- とべ動物園
- のいち動物公園
- 福岡市動物園
- 熊本市動植物園
- 平川動物公園
- ネオパークオキナワ
フランソワルトン / Francois’ Langur


分類:霊長目 オナガザル科 ラングール属
分布:中国南部〜ベトナム北部
保全状況:危機(EN)
河川に面した険しい岩山のある熱帯雨林に住んでいる、ラングールと呼ばれるサルの仲間です。
真っ黒な体に白い頬毛、頭頂部の毛はモヒカンのように逆立っているのが特徴となっています。


しかし、生まれたばかりの赤ちゃんは鮮やかなオレンジ色で、成長につれて徐々に黒くなります。
こんな色をしているのは、群れの大人に対して、自分の子ではない赤ちゃんの世話をしたり、敵から守る「子守行動」を促すためであると考えられています。



可愛いオレンジ色が見られるのは、たった数ヶ月だけ!
赤ちゃんが生まれたら、なるべく早く会いに行くことをお勧めします。
他のラングールやテナガザルと同じく、日常のほとんどを樹上で過ごしており、水飲みなど以外で地上に降りることはほとんどありません。
また、夜は岩棚や洞窟で休むというサルとしては変わっている習性の持ち主でもあります。
彼らは森林開発による生息域の破壊や分断によって絶滅の危機に瀕しており、他のラングールと比べると生息域が狭く、保護活動もあまり行われていないため、予断を許さぬ状況です。
また、中国では、古くから骨が薬になるとされて密猟が続いており、2003年時点で現地における野生個体数は1450〜1600頭と推定されています。
フランソワルトンをはじめ、木の葉を主食としているサルの仲間は一般に「リーフイーター(葉を食べる者)」と呼ばれています。
彼らの胃袋は大きい上にくびれて3つに分かれており、構造はまるでウシのそれ!そして、その中にいる微生物の力を借りて繊維(セルロース)を分解し、葉の栄養をしっかりと吸収することができるのです。
- よこはま動物園ズーラシア
- 浜松市動物園
- 西山動物園
- 天王寺動物園
- 大牟田市動物園
カンムリシロムク / Bali Myna


分類:スズメ目 ムクドリ科 カンムリシロムク属
分布:インドネシア(バリ島)
保全状況:深刻な危機(CR)
低地のサバンナや落葉樹林に暮らしているムクドリの仲間です。
白い羽毛とコバルトブルーの顔という、とても神秘的で美しい外見をしています。



私は初めて見た時、ムクドリだとは思えませんでした。
オスはメスより大きく、冠羽が発達しています。
繁殖期にはそれを立て、体を上下に揺らして相手にアピールする「ボビングディスプレイ」という行動がしばしば見られますが、雌雄ともに行うため、見分けはつきにくいです。
彼らはバリ島の固有種で、生息域も島の北西部の海岸付近のみ。そのため元から個体数が少なく、1960年代以降、農地や観光整備のための開発による森林伐採やペット目的の乱獲によって数を減らしていきました。
1982年には生息域がバリ・バラト国立公園に指定されましたが、それでも数は減り続けてしまいます。1990年には14羽にまで追い込まれ、一度は野生個体が確認できなくなったこともあります。


飼育下では欧米や日本の動物園、繁殖施設でおよそ700羽以上が飼育されており、現在も血統管理に基づいた飼育下繁殖計画や野生復帰活動が進められているところです。
一度は絶滅の淵に立たされた彼らですが、その危機にいち早く気づいたインドネシアをはじめ、多くの国の努力によって彼らは救われているのです。
カンムリシロムクの和名の由来は、頭にピンと立ち上がる「冠羽」を持つ「白いムクドリ」という、特徴と分類を捉えたものです。婚礼の白無垢とは全く関係がありません。
しかし、本当に白無垢を着ているように見た目は真っ白!まさしく偶然の一致なんです。
- 円山動物園
- 埼玉県こども動物自然公園
- よこはま動物園ズーラシア
- 富山市ファミリーパーク
- 日本平動物園
- 王子動物園
- わんぱーくこうちアニマルランド
ビルマニシキヘビ / Burmese Python


分類:有鱗目 ニシキヘビ科 ニシキヘビ属
分布:ミャンマー、タイ、ラオスなど
保全状況:危急(VU)
密林や湿地帯で見ることのできるニシキヘビです。
全長は約5~7mと、東南アジアに暮らすヘビの仲間ではアミメニシキヘビ(全長約6~8m)に次いで2番目に大きな種となります。



胴体が太いので、これで絞め上げられたらひとたまりもない……


若いうちは樹上性が強いのですが、成長につれて重みと大きさで木登りが難しくなるため、地上で過ごすようになっていきます。
また、泳ぎも得意で、息継ぎなしで30分間も水中に潜り続けることもできます。
彼らは模様がとても美しいことから、革を目的とした密猟やペット化のための乱獲が後を絶たず、農地開発などで生息域の環境が破壊されていることもあって絶滅の危機に瀕しています。
また、アメリカ・フロリダ州では、ハリケーンなどによる飼育下個体の脱走をきっかけに侵略的外来種として問題になっており、生態系への影響が懸念されています。
天敵がおらず、年中温暖なフロリダは彼らにとって絶好の環境。そんな中での彼らの成長は凄まじく、時には彼らより大きなシカさえ餌食となってしまうほどです。
ニシキヘビ科のヘビは、ボア科と同じく獲物を絞め殺すという点から気性が荒いイメージがあると思いますが、ビルマニシキヘビは比較的穏やかな気性をしており、動物園で触れ合ったり、日本でもペットとして一般家庭で飼育することができるヘビの一種でした。
しかし現在は、2020年の動物愛護法の改正に伴い、特定動物(人に危害を加える恐れのある危険な動物)として、動物園での一般人との接触や、愛玩目的での飼育は禁じられています。
- 円山動物園
- 那須どうぶつ王国
- かみね動物園
- 東武動物公園
- 上野動物園
- 天王寺動物園
- 神戸どうぶつ王国
- 姫路セントラルパーク
- 安佐動物公園
- 徳山動物園
- とべ動物園
- 福岡市動物園
- 沖縄こどもの国
最後に
いかがだったでしょうか?
東南アジアの素敵な動物たちのことを、少しでも知っていただけたでしょうか?
東南アジアは生態系の維持に必要不可欠な動物が多く、彼らが姿を消してしまうと、動物たちの秘境はあっという間になくなってしまいます。
彼らについて知ることも、それを防ぐための立派な保全活動です。ぜひ動物園に足を運んでみてください。
危機にある東南アジアの動物たちはまだまだたくさんいますので、東南アジア編 その2をお待ちください!
そして、次回の投稿ではアフリカの動物たちを紹介する予定です!
次回もお楽しみに!!
・イヌの肉球はコーン?お菓子の香り漂う動物たち | ナショナルジオグラフィック日本版
(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/042600154)
・外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食…大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功 | ニューズウィーク日本版
(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/10/521363.php)
・ビルマニシキヘビ | ナショナルジオグラフィック日本版
(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/429012/)
・ビントロング | 東山動植物園 飼育第二係 原 真実さんのSDGs | brother SDGs STORY
(https://sdgsstory.global.brother/j/special/minna/627/)
・横浜市繁殖センター | 横浜市
(https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/midori-koen/zoo_garden/hanshoku/)
・よこはま動物園ズーラシア公式サイト
(https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/)
・動物の愛護及び管理に関する法律 | e-Gov 法令検索
(https://laws.e-gov.go.jp/law/348AC1000000105)
・IUCNレッドリスト
(https://www.iucnredlist.org/)









