「みんなのアニマルアカデミア vol.3」立教大学・上田恵介 名誉教授にインタビュー!!~“動物園の未来”と学生に向けて~

はじめに

僕は“ZooPortal”を立ち上げた際、目的の一つに、「専門家の集まる場」をつくりたい!という思いがありました。なかなか専門家の“生の声”を聴く機会はないですよね…
というわけで、これからZooPortalは第一線で活躍されている研究者の方々の“生の声”をRyuseiがお届けしていきます!!

第一弾は、僕が高校時代に卒業論文執筆でお世話になりました立教大学上田恵介名誉教授にお話を伺います!

YouTubeで全編を見る

上田 恵介 (立教大学理学部 名誉教授)

略歴

日本の生物学者(行動生態学・動物行動学・進化生態学)、鳥類学者。 立教大学名誉教授、公益財団法人日本野鳥の会会長(第6代)、公益財団法人山階鳥類研究所特任研究員。
これまでに立教大学理学部生命理学科教授、日本動物行動学会会長、日本鳥学会会長などを歴任。

Ryusei

上田先生!よろしくお願いいたします!

Q.1「先生が今、一番動物園に対して必要だと思うことは何ですか?」

上田先生

動物園に対しては様々なことが求められていますが…

上田先生)今の動物園はすごく変化してきていると思います。昔の動物園は見世物的な一面が強かったと思いますが、今は「アニマルウェルフェア」の観点が広まり、動物たちも本来の姿を見せられるよう工夫されています。
この動きは世界中の動物園で見られます。これはとても素晴らしいことだと思いますし、今後さらに進めていかなければならない、もっと変化していかなければならないと思います。来園者も、狭い檻に閉じ込められた動物よりものびのびとした動物たちの方が見ていて楽しいのではないでしょうかね。
日本は他の国に比べて敷地も狭く、不利な面も多いですが、狭いなりに工夫して頑張っていかなければいかないですね。

変化と同時に、動物の保護にもさらに力を入れていかなければならないと思います。
絶滅が心配されている種類において野生下での個体数維持もとても大切ですが、野生下で何かあった時にの為に保護しておくのはとても大切です。
鳥類でも日本固有のライチョウは熱心に保護が行われています。最近では技術も発展し、より詳しく遺伝的な分類や系統も区別できるようになりましたし、昔に比べて近親交配のリスクも減らすことができました。このことを生かし、より細かく正確に保護していけることが動物園の役割を果たしていくうえで大切のではないかと思います。

冬毛のライチョウ
Ryusei

保護活動などをしていくうえで、今一番足りていないものって何だと思いますか?

上田先生

施設資金も大事、だけど…

上田先生)やはり必要なのは施設であり、そこにどれだけ資金を掛けられるかというところだと思います。
民間の動物園には経営面での制約があるので、国や自治体がどれだけサポートできるのかということもカギになると思います。施設だけでなく、人件費もかかります。なので国民に対し、「これは我々の利益になることだ」としっかり説明し理解してもらうことが必要と思います。

そして必要なのは施設だけでなく、動物園が研究していくことが求められます。動物園では飼育がメインになりがちですが、博士課程を卒業したような動物生態学者を採用し、研究を専門に行えるような部門を作るべきだと思います。現状では動物園も必要最低限の人員で動かしていますのでそういった余裕もまだないのだと思います。

Q.2「上田先生の理想とする展示は?」

Ryusei

行動学の専門家であられる先生の理想とは?

上田先生

動物に対して負担のかからないような展示ですかね

上田先生)理想というのは動物が野生に生きているのをそのまま見せているような、動物へも負担のかからないような展示が望ましいですね。
見学者の視点から見ても、「大きい!」「きれい!」などの初歩的な興味だけでなく、小さく地味な動物たちも「こんな行動をするんだ!」などという新しい興味を持てることが大事と思います。また、昼間活動する大型の哺乳類をメインに展示するような動物園が多いと思いますが、小型で夜間に活動する種類の方が多いです。これらの夜行性動物の展示への工夫についてはまだまだこれから模索していかなければならないと思います。

上田先生の思う“モデルケース”ってどこですか?
上田先生

埼玉こども動物自然公園よこはま動物園ズーラシアは特に素晴らしいと思います!

動物園にはよく孫を連れていきますが、埼玉こども動物自然公園は敷地が広く、動物たちものびのび暮らしている印象があります。例えばクオッカやカピバラ、コアラもいますし、彼らも幸せそうに見えます。
またよこはま動物園ズーラシアポリシーがしっかりとしていて素晴らしいですね。貴重な動物の飼育繁殖も行っているし、素晴らしいと思います。

Q.4「動物の研究を始めた“きっかけ”って何ですか。。

Ryusei

上田先生の活動の原点とは?

上田先生)明確なきっかけがあるわけではありませんが、昔から動物は好きでしたね。長い間大阪にいたのですが、昔の大阪は里山と呼ばれる環境で、幼少期は毎日水田や原っぱで昆虫や鳥を追いかけて暮らしていました。池でザリガニやフナを釣ったり、夏休みには川で魚を捕まえたりしていました。蝶やトンボを捕まえて標本をしたり、こういう生き物と関わることが当たり前でした。小学校の頃は動物の飼育係をしていて、セキセイインコや文鳥など多くの鳥を飼育していて、鳥は好きでしたね。このころから動物は大好きだったので、生物学者などの動物に関わる仕事に就きたいなというのは漠然と思っていました

Ryusei

動物学者を目指す決断をしたのはいつ頃ですか?

高校から進学する際、生物の研究をしようと思い生物学科などを探していました。しかしDNAの二重らせん構造が発見されてから10年ほどしかたっていないこともあり、日本の生物学は細胞や分子などが主軸になっていました。そこで農学部などにある昆虫学研究室をめざし、大阪府立大学農学部に進学しました。大学では昆虫生態学を学び、論文も書きました。この間も鳥は好きで、バードウォッチングなどはしていましたね。

しかし修士から博士に上がる際、他の同期が自分よりいい研究発表をしているのを見ていると「自分の研究がプロとして通用するのだろうか」「研究をこのままやっていけるのだろうか」と不安にあり、自信を無くすことがありました。ゼミなどで議論を重ねる中で、“自分の知識の無さ”もすごく感じました。この修士から博士に進む時期が生涯で一番勉強した時期だったと思います。こうして勉強していく中で「鳥と虫の関係ってあまりわかっていないのでは?」と気づき、自分の好きだった鳥なら!人と違う研究ができる!と思い進んでいったことが、自分なりに劣等感を払しょくするきっかけになったと思います。

研究していく中での思い出、やりがいって何ですか?
上田先生

誰も知らない事を発見するのが面白い!

昆虫と違って鳥は種数が少ないので多くの事がわかっていると思われますが、自分で全く新しいことを発見したときは本当に面白いですね!

研究をするうえで、発見することは目的ではありません!それが面白いからやるんです!僕は研究に面白さを感じる、そういう人が本当の研究者と思います。

周りに動物好きな友達がいなくて孤立してしまう学生たちへ!
上田先生

諦めないで!!

上田先生)野鳥の会でも「小学生のころから子供が好き!」という子供も多く見ます。しかし、他に興味が移ってしまう子たちの方が多くいるし、それは構わないと思います。しかし、一見役に立たないような研究をしていて、周りの親から「そんなことしていては就職できない!」などネガティブな言葉を浴びせられることもありました。そこで潰れたらいけないと思います。私はそこを反骨心にかえました。現実的な問題をあるのでネガティブなことを言ってはいけないというわけではありませんが、夢をつぶしてはいけないと思います。

子供の夢をつぶすのではなく親も一緒に頑張るというのが大切と思います。

Q.5「環境や動物に対して“自分たちにできること”って何ですか?」

上田先生

難しいけど、何でもできます!!!

上田先生)いろんな事が出来るし、何でもできると思います!!ただ、一人ではなかなかできないと思います。私も若いころは自身もなかったし、劣等感もありました。さらに今の日本では一人で動き出すと“出る杭は打たれる”のようにたたかれてしまう社会構造があります。自分と同じような考えを持つ仲間を増やしていくこと大きな力になっていくと思います。
一人で何かしていくことは難しいけれど、仲間を作っていって、多くを発信していくような生き方をしてほしいと思います。みんなで話すこと、対話していく事、これが一番大切と思います。個人だけでは情報にも偏りが出てしまいますので、多くの人と話していく中でとベストでなくともより良い方法を模索していくことができると思います。こういうことを積み重ねていくことで、ゆっくりにでも世界を変えていけるんじゃないかと思います。

Q.6「可愛いの先」を見てもらうためには?

Ryusei

“ZooPortal”の目的の一つでもある「可愛いの先」を見てもらうためにはどうすればいいと思いますか?

上田先生

最初は“可愛い”からでいいのです!
可愛いと思ったら実際に行ってみよう

上田先生)始まりは可愛いでも全然いいと思います。そこから、実際に行ってみてほしいですね。

鳥の世界でも最近シマエナガがかわいいと話題になりました。しかし実際に北海道でバードウォッチングをしてみるとそこまで珍しいものではないですね。比較的簡単に出会う事が出来ます。生の動物園に行く体験をしてほしい。動物園だけでなく、野生も見てほしいと思いますね。ちょっと旅行しようと思った時に野生動物を見に行ける場所を選んでみたり、お出かけする時に動物園に行ってみたり…そういうことが大事になります。海外旅行でもパリやニューヨークではなくアフリカや中南米に行って生の動物体験をしてほしいです。
ネットの動画などバーチャルな世界だけでなく、実際に野山に飛び出してほしいと思いますね。

Q.7 動物関係の職に就きたい人たちに対して、一番伝えたいことは?

上田先生

諦めないで!!頑張って!!
夢は叶います!!

上田先生)諦めないで頑張りなさい、絶対に夢は叶う、とにかくこれに尽きると思いますね。自分が好きでやっていたら、勉強もするし人の知らないこともたくさん知っているわけで、どんどん専門家レベルを自分で高めていくことが自然にできると思います。それと同時に、ちゃんと自分でも本を読んだりして実践していくことも大事と思います。

最後に…

まず上田先生ご協力本当にありがとうございました!

今回上田先生にお話を聞いて、本当に勉強になりました!!今まで自分では答えの出せなかった事、専門家聞いてみたかったことを聞けて本当に貴重な経験になりました。上田先生ほどの方がどうやって現在の立場に至ったのか、その原点も知ることができて僕と同じ学生の皆さんもぜひ参考にしていただきたいです。

今回僕も初めてのインタビューだったこともあり、自分自身でも多くの改善点を自覚しております…次回以降さらに改善したものをお届けできるように頑張っていきます!!
(担当:Ryusei)

Ryusei

アニマルアカデミア、vol4vol5の制作も進んでおります!!
お楽しみに!!

シェアお願いします!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Ryusei -動物ガチ勢-のアバター Ryusei -動物ガチ勢- 現役獣医学部生

動物ガチの大学生です! 動物園と一緒に動物福祉の研究しました!2023年埼玉県私学文化祭最優秀賞、2024年日本動物学会高校生ポスター賞受賞、2024年3月千葉市動物公園にて講演会を実施
推し動物はゾウ、ヒョウなど…!