はじめに

こんにちは!マレーシア在住のTokiです!
私は過去に何度かタイを訪問しており、その中で私が実際に見てきた光景を紹介したいと思います。今回はタイのレポート第二弾として、私が感じたタイの動物業界で未来を感じた点を紹介していきます。
- この記事は特定の国、文化、施設、会社、個人等を否定・攻撃するものではありません
- この記事内に記載されている施設を訪問する際は、自己責任でお願いいたします
- この記事は不法な動物の飼育や取引を助長するものではありません



あくまで個人の感想としてお楽しみいただければ幸いです!
タイ遠征で見た現実
タイへの動物園遠征中、私はどうしても負の側面が印象に残っていました。
- 狭い室内にいる孤独なゴリラ
- 朝から晩までふれあいイベントに参加しているトラ
- 出所不明の珍獣の数々
これらは実際に私が見てきた光景です。詳細はこちらの記事をご確認ください。


今回の記事では、これとは裏腹の、タイの動物業界の明るい面を紹介していきます。
アジア最大級の楽園を訪れて



動物たちが救われる一面を見たい。そう考えた私は、アジア最大級の動物保護施設を訪れることにしました。
首都バンコクからタクシーで3時間。郊外の山奥に、WFFTはあります。正式名称をWildlife Friends Foundation Thailandというこの施設は、地元の寺院の土地を活用して2001年に創設されたNGOで、タイ国内の動物保護を目的としています。200ヘクタール(東京ドーム43個分)の広大な敷地は動物保護施設としてはアジア最大級で、ゾウ、霊長類、シカ、サイチョウなど約1000匹の保護された動物が暮らしています。
詳しい歴史や活動内容は下記公式サイトをご確認ください:
WFFT公式サイト
その広さ、旭山動物園以上!広大なゾウ展示場
保護施設の入口となるElephant Lodgeに到着してまず目に入ってくるのは、約18ヘクタールの広大なゾウ展示場。自然に近い環境が整備されていて、保護されたゾウが群れで生活しています。







大きな動物園が丸々入ってしまう規模の展示場は圧巻でした!
更に、この展示場には池があり、その中央には島があります。この島全体が、テナガザルのために作られた広々とした展示場です。


施設全体ではゾウの展示場が6カ所あり、合計22頭のゾウが飼育されています。これらのゾウは観光ビジネス、林業、動物プロダクション等で長年人と共に働き、様々な事情によりここに保護されています。上記の一番大きな展示場では、大半のメスが群れで生活しています。オスや、長年の人との生活の中で他のゾウとの接触を嫌うメスは、個別の展示場でマイペースに過ごしています。
こちらはその一例。メスのゾウが一頭で暮らしています。彼女は長年の人との関りから他のゾウを嫌い、現在は専用の展示場でのんびりと過ごしています。彼女の為に作られた個別展示場ですが、一般的な動物園のゾウ展示場よりも広いです。


保護区内で生活しているゾウ達のプロフィールはこちらのサイトで公開されています。
Elephant Refuge


トラが見えない幸せ
普通の動物園では、展示場にトラが見えないと残念に思う人もいるかもしれません。しかし、ここは保護施設。広大な展示場の中に森や池等の自然があり、24時間寝室と出入り自由な展示場では、トラが思い思いの時間を過ごしており、本来シャイなトラが見えない幸せを感じることができます。
この2枚の写真は、コロナ過で閉園した動物園から引き取られた2頭の兄弟の為に作られた展示場です。この広大で自然豊かな展示場で、のんびりと過ごしていました。







トラ本来の生息環境がうまく再現されていて驚きました!
施設では現在20頭以上のトラを飼育しており、これらは全て廃業した動物園や不法に飼育されていた施設から保護された動物です。興味深いのは、全ての個体が地元タイの亜種インドシナトラではなく、インド原産の亜種ベンガルトラ(またはその交雑個体)だということ。インドからタイへのトラの公式な輸入記録は殆どないため、インドの繁殖場から密輸されたトラがタイ国内の施設で繁殖・飼育されているようです。


まだまだいる!保護された動物たち
ゾウやトラ以外にも、保護された動物達に会うことができました。
こちらはヒクイドリ。タイの寺院で飼育されていましたが、設備の不備により脱走してしまいました。その際、驚いた近隣住民により暴行を受け、脳に障害を負いました。この保護施設でリハビリを行い、自力で歩いたり餌を食べたりできるようになるまで回復し、現在は広い展示場で余生を過ごしています。


こちらはチンパンジー。学校の教師により校舎内の小さな檻で長年飼育されていました。現在は広い専用展示場で過ごしています。




こちらは森の中に広がるテナガザル展示場。同様の展示場が50個ほどあり、展示場同士の連結によるペアリング等柔軟に対応できる構造です。


事故で腕を失い保護された個体もいました。


テナガザルの子どもは観光客への人気が高く、観光地の路上で有償での写真撮影等のビジネスも多く行われていました。しかし成長と共に飼育者の手に負えず遺棄されるケースも多く、保護個体数が非常に多いようです。



実際に私も過去にプーケットでシロテテナガザルの子どもをいきなり押し付けられ、強引に写真撮影をしようとするビジネスに遭遇しました。
こちらはペットとして飼育されていたイグアナ。他にもリクガメやフクロモモンガ等、ペットとして購入したものの十分なケアができずにこの施設に保護される動物も多くいました。


この保護施設では他にも多くの動物を抱えていて、そのほとんどが繁殖をせずに終生飼育を行っている個体です。これは、長年の人による飼育により野生で生きていくすべを知らなかったり、怪我や障害などで復帰困難とされているからです。動物園とはまた違って視点で、野生動物保護の現状を学べます。興味がある方は、ガイドツアーに参加してみたください。バンコクからの送迎付きプランもあります!



私はバンコクからのタクシー送迎付きプランで参加しました。施設では多くの保護された動物について話を聞くことができ、スタッフさんの動物に対する愛を感じました。
Full Day and Half Day Experience Tours
行政も黙っていない!地元の動物保護施設を訪れて
WFFTは民間の団体ですが、タイ国内最大の規模を誇る野生動物保護施設です。では、行政は保護施設に力を入れていないのかというと、そうではありません。タイ国内には王室プロジェクトの一環として国によって運営されている公共の動物保護施設が各地に存在し、一部は動物園として一般公開されています。1カ所に広大な敷地を持ち、タイ全体から動物を受け入れる民間施設と、地域に密着しながら地元の動物を受け入れる公共の施設は、それぞれ別の役割を持ちながら共に動物保護に力を入れています。
そのような地域密着型の動物保護施設の一つ、Huai Sai Wildlife Breeding Centreを訪問してきました。
保護を目的とした動物園
首都バンコクから車で約3時間。地方都市Hua Hinの郊外に、Huai Sai Wildlife Breeding Centre (通称 Huai Sai Zoo)はあります。ここは無料の動物園として一般公開されており、私が訪問した時も地元の方が多く訪れていました。


この施設の特徴は、主に野生復帰や希少種の繁殖を目指す研究施設だということです。施設内でも、動物の展示は大きくこのように区別されてました:
- <一時保護> 一時保護し、回復後野生復帰する個体
- ケガ等で受け入れた地元の野生動物
- 殆どの個体は一般公開されておらず、比較的狭い治療用のケージで飼育
- <終生飼育> 様々な事情により野生復帰困難で、終生飼育する個体
- 押収された外来の動物や、健康上の理由等で野生復帰困難な動物
- 殆どの個体は一般公開されており、広い展示場で終生飼育
- <研究目的> 繁殖や生態の研究の為に飼育する個体
- 比較的健康な動物
- 殆どの個体は一般公開されており、広い展示場で終生飼育
- 繁殖を目的とするため基本的に群れやペアで飼育
こちらは人里に迷い込み、怪我をして保護されたオビリンサン。世界中の動物園を探しても飼育個体がほとんどいないとされている珍しい動物です。飼育方法が確立されていない中、スタッフによる懸命なケアを受け、治療用のケージで療養していました。


こちらはペットとして違法に取引されていたところを保護されたホウシャガメとエロンガータリクガメ。日本でも一部の飼育者から人気の種ですが、共にIUCNによりCritically Endangered(深刻な絶滅の危機)とされている種です。


自由な動物園
この動物園では、動物達が比較的自由に過ごしています。広い展示場で自由に動き回ったり、繁殖したりする姿は、まるで自然の中で暮らしているかのようで、見ている側も心が和みます。
こちらは保護されたゾウ。園内の広い場所で飼育されていますが、柵がない展示場の為長い鎖で木に繋がれています。飼育設備の都合で鎖で繋がれていても、広場の中を自由に動いたり遊んだりする姿を見れるのは良い展示だと感じました。


ゾウ使いのスタッフと共に園内を長時間散歩する姿もありました。散歩中、園内の葉をおやつとして食べ歩きしていました。


こちらはシカの展示場。この施設では数種類のシカを飼育し、いずれも大きな群れでています。


他にもボウシテナガザル、ビントロング、スマトラカモシカ、コフウチョウ等の生き物たちが飼育されていました。



ここは動物園を名乗ってはいますが、実態は保護施設です!
ヘビを守る、人も守る!
バンコク市内にも、動物を守るための施設があります。タイ赤十字により運営されているSnake Farmは、人とヘビの双方を守る施設として設立されました。ここでは毒ヘビに関する教育や啓発活動が行われており、ヘビによる被害を減らすことを目的としています。


教育がヘビを守る!
熱帯のタイには、約200種ものヘビが生息しています。この中には毒を持っているヘビなど人が注意しなければいけない種もいますが、実は多くの種が人には無害です。しかしながら、中には“ヘビ=人に危害を加える”という誤った認識の下、無益な殺生をしてしまうケースも少なくありません。こうした誤解をなくし、ヘビという生き物への正しい理解を広めることが、Snake Farmの大きな使命のひとつです。
生態展示エリアでは地元の種を中心に約40種のヘビを常時展示しています。それぞれの種名板には、人間に対し危害を加えるリスクなども記載されています。




教育エリアでは、ヘビを無暗に恐れるのではなく、正しく理解するための知識を広めています。




研究が人を守る!
もちろん、守るのはヘビだけではありません。ヘビを知ることは、人を守ることにもつながります。この施設では毒ヘビの研究にも長く力を入れており、医療面でも重要な役割を果たしています。特に血清の製造や狂犬病ワクチンの研究で知られています。


このように、ここは商業的なアミューズメント施設ではなく、赤十字社による公的な研究・教育施設として運営されています。一般公開されていますが、その本質は「ヘビと人間の安全を守るための科学・医療」と言えるでしょう。日本国内だと、群馬県のジャパンスネークセンターが似たような事業を行っていますが、タイでは政府や国際団体の支援の下で大規模な研究や教育を行っています
タイの動物に未来はあるのか?
タイ政府は、近年になって動物を利用した観光の在り方について、徐々にではありますが見直しを進めています。その背景には、国内外からの動物福祉への関心の高まりや、旅行者の意識の変化があります。
自然体なゾウを見る
かつては観光客がゾウに乗る“エレファントライド”が人気アクティビティのひとつとされてきましたが、現在ではその裏にあるゾウの苦痛や調教方法に対する批判の声が強まっており、観光の形も変わりつつあります。
そうした流れの中で、タイ観光庁が旅行者に推奨しているのが「エレファント・ケア・ツーリズム」です。これは、ゾウに乗ったり芸をさせたりするのではなく、自然に近い環境で象とふれあいながら、その生活を支援するような体験型の観光スタイルです。このスタイルは、ゾウに餌をあげたり、広い場所で伸び伸びと生きるゾウを観察したりと、象の“ありのままの生活”に寄り添うような活動が中心です。
エレファント・ケア・ツーリズム


このような取り組みは、観光客にとっても動物との関係を見直すきっかけとなるだけでなく、長年観光資源として利用されてきたゾウたちの暮らしを、より健全で持続可能なものへと転換していく道でもあります。タイ各地に存在する“エレファント・ケア”を掲げた施設の中には、元サーカスや労働から引退したゾウたちを保護する場として運営されているものも多く、観光と福祉の両立を目指した新しいモデルとして注目を集めています。
タイがこれまで築いてきた「ゾウと共にある文化」を完全に否定することなく、それを未来へと繋げる形での変化を模索するこの動きは、今後の動物観光のあり方を考えるうえで、大きなヒントを与えてくれるでしょう。



みなさんも観光で動物に関わる施設を訪問するときは、動物の為を考えている場所を選びましょう!
不法な動物の取引は終わるのか?
動物福祉は改善に向かっています。では、タイの動物に関わる問題としてもう一つの問題、不法な動物の取引はどうでしょうか?2025年に入ってからも、このような悲しいニュースが入ってきています:
- インドの空港でタイからの動物の密輸が相次ぐ
- インドの密輸業者が、一般人を募ってタイから動物の運び屋に仕立て上げられているようです
- バンコク市内で不法取引されていたオランウータンの赤ちゃん2匹を保護
- タイ国内で動物の不法な取引に関与していた運び屋が逮捕されました
- バンコクからスリランカへ絶滅危惧種のヘビを密輸を阻止
- 下着にヘビを隠してタイ国外に密輸を試みていました運び屋が逮捕されました
近年は犯罪組織がSNS等で運び屋を募集し、元となっている組織の全容が掴みにくい傾向があるようです。この場合、仮に不法な取引が発覚しても逮捕されるのは末端の運び屋のみで犯罪組織全体の壊滅は難しいとされています。この手法は日本国内にも存在し、外務省が注意を呼びかけています。
このように、様々な手法で今日もタイでは動物の不法な取引が行われています。しかし、近年の規制強化によりタイ国内で摘発される不法な取引は減少傾向にあるとされています。いきなりゼロにするのは難しいかもしれませんが、1日でも早く不法に取引される動物がゼロになることを願います。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
今回の記事では、タイの動物業界の善の側面を考えてみました。一部の動物園等で動物福祉が行き届かずに悲惨な環境で飼育されている動物が沢山いることは事実です。しかし、規制強化や人々の考え方の変化により、動物たちを取り巻く環境は日々進歩しています。
もちろん、課題がすべて解決されたわけではありません。観光需要に依存する施設では、収益を優先して動物福祉が後回しにされてしまうケースもありますし、法整備が追いついていない部分もあります。それでも、少しずつでも改善に向かっている現状を見れば、希望を持てる未来があることは確かです。
タイは生物多様性に富んだ国であり、その豊かな自然と動物たちは国の大切な財産です。私たち一人ひとりが、観光や日常生活の中でどう関わるかが、その未来を大きく左右することを忘れてはなりません。動物を「見に行く」だけではなく、「知り、考え、支える」という意識のもと、私たちもまた、この変化の一部となっていけるのではないでしょうか。



この記事をきっかけに、動物が飼育されている環境について少しでも興味を持ってくれる方が増えてくれることを願います。