はじめに

こんにちは!マレーシア在住のTokiです!
私は過去に何度かタイを訪問しており、その中で私が実際に見てきた光景を紹介したいと思います。この記事では、遠征の中で私が感じたタイの動物業界の負の側面を紹介します。
- この記事は特定の国、文化、施設、会社、個人等を否定・攻撃するものではありません
- この記事内に記載されている施設を訪問する際は、自己責任でお願いいたします
- この記事は不法な動物の飼育や取引を助長するものではありません



あくまで個人の感想としてお楽しみいただければ幸いです!
まるで牢獄?時代遅れの動物園


突然ですがみなさん、“動物園”と聞いて、どのような飼育施設を思い浮かべますでしょうか?
動物園通いがベテランの方の中には、昔の動物園で狭くて何もないコンクリート製の檻にライオン等の大型動物が飼育されていた記憶があるかもしれません。しかし、動物福祉の考え方が進むにつれ、動物園の飼育施設は時代と共に大きく進歩してきました。現在の日本では、主要な動物園の展示場の多くが、予算や土地に制限がある中で可能な限り動物の自然な行動を意識した作りになっています。
しかしながら、海外の一部の動物園では、未だに昔ながらの飼育環境で動物を飼育しているところも多いです。今回紹介するタイも、そのような時代遅れな飼育設備が多く存在します。
世界一さびしいゴリラ?
タイの動物園の負の側面を語る上で欠かせないのが、1頭のメスのゴリラ、Bua Noiの存在です。Bua Noiは“世界一寂しいゴリラ”としても知られており、ドイツの動物商から輸入後、バンコクの動物園Pata Zooで40年近く日の当たらない狭いコンクリートの檻で飼育されています。様々な団体から環境改善や移送の要望が出ているようですが、2025年現在もこの状態での飼育が継続されています。



日本モンキーセンターのゴリラ「タロウ」も単独飼育されていますが、“世界一寂しいゴリラ”とは言われていません。
これは、野外に出れる飼育環境は勿論、同園のスタッフによるエンリッチメントの努力や、来園者との良いつながりがあるからだと私は感じています。
Pata Zooの場合は、エンリッチメントと呼べるものが一切なく、来園者から投げられたごみを食べるなどの行動を見せていたこともこのように呼ばれる一因だと思っています。
Pata Zooではゴリラのほかにもチンパンジー、オランウータン、ボノボ等の大型霊長類を始め、多くの動物が劣悪な環境で飼育されています。諸事情により訪問時の写真はありませんが、下記の記事に詳しく書いてあります:
Mounting Legal Woes of Thailand’s Pata Zoo Could Finally Spell Its Closure



私が2023年に訪問した時はゴリラの前にだけ強面の警備員がいました。
事前に入り口で館内撮影の確認をしていたにも関わらず、ゴリラを撮影していたら“館内撮影禁止”と言われて強引に制止されました。
そのまま複数の警備員に囲まれて“写真の公開はしない・二度と園に来ない”という誓約書を書かされ、パスポートの写真を撮られ、園から強制退場させられました。
今まで海外の色々な動物園に行きましたが、一番「異様な空気」を感じた場所でした。動物の福祉ではなく、“見せたくない何か”を守るために動いているように感じられ、単なる観光施設とは思えませんでした。あの時の警備員の目つきや対応は、今でも忘れられません。
3Kの飼育環境
私が個人的に”3Kの飼育環境”と呼んでいるものがあります。本来は「きつい」「汚い」「危険」な仕事の頭文字をとって3Kと呼びますが、実は動物の飼育環境にもこのように当てはまります:
- きつい → 狭い、日影やシェルターがない、餌や水が不十分等
- 汚い → 清掃ができていない、異臭がする等
- 危険 → 動物にとって危険な構造、来園者との接触が容易等



残念ながら、私が訪れたタイの動物園の一部には、このような”3Kの飼育環境”がありました。
こちらは、Hua Hin Zooの小動物や鳥類の展示場。清潔な餌や水が見当たらず、シェルターも簡易的なものです。


こちらは、Pattaya Crocodile Farmのイリエワニ展示場。死体が放置され、清掃も行き届いておらず、異臭を放っていました。


こちらは、Monster World Pattayaのウンピョウ展示場。側面の金網は容易に動物と接触できる構造です。





このような展示場が将来的になくなれば良いなと感じています
ゾウにトラ!動物ビジネスの裏側
タイの動物園と聞いて、トラとの写真撮影やゾウのライド等を想像される方も多いのではないでしょうか?実際にタイの観光庁も含め、多くの団体がタイ観光の一環としてトラやゾウとのアクティビティを宣伝しています。しかし、その一部は、動物福祉を無視したり、不法な営業をしています。
トラとのふれあいの裏側
過去に日本でもよく知られていたトラのいる寺院“タイガーテンプル”が不法行為や動物虐待により告発されたのを覚えている方もいるのではないでしょうか?この寺院は、表面上は“動物保護”をアピールしながら多くのトラを繁殖させて観光客とのふれあいや写真撮影を行っていましたが、実際には裏でトラの不法な取引や虐待を行っていました。この件に関しては、こちらのナショナルジオグラフィックの記事に詳しく書いてあります:
解説:タイのトラ寺院に40頭の子トラ死体
この施設は閉鎖されましたが、残念ながら類似の施設はタイ国内にまだ多く存在します。写真撮影やふれあいに関しても、力のあるトラやライオンが安全に観光客と接する為に、薬物の使用や極端な行動の制限も多く行われていると言われています。私が実際にタイで見てきた大型ネコの実態をいくつか紹介しましょう。
Hua Hin Zooのホワイトライオン。動物園の“生きる看板”として入り口で飼育され、身動きが取れないほど短い鎖に終日繋がれています。有料で写真撮影も可能。


Hua Hin Safari and Adventure Parkのチーター。珍しさからか、写真撮影イベントの目玉でした。


Hua Hin Safari and Adventure Parkのライガー。トラとライオンの交雑個体で、現在は動物福祉面から多くの国で禁止されていますが、タイでは現役で繁殖しています。


Pattaya Crocodile Farmのトラ飼育施設。かなりの狭さですが、通常ここに2-3頭のトラが飼育されています。


飼育数で言えば、トラが圧倒的に多いです。タイには亜種インドシナトラが分布していますが、飼育下のトラは殆どがインド原産の亜種ベンガルトラ(またはその交雑個体)だとされています。インドからタイへのトラの公式な輸入記録は殆どないため、インドの繁殖場から密輸されたトラがタイ国内の施設で繁殖しているとされています。
ゾウのライドはゾウのため?
トラと同じくタイの観光の目玉の一つであるゾウ。観光客を乗せる“ゾウライド”は有名ですよね。動物園の中には、“ゾウは人を乗せるのが好きなのでゾウの為に乗っている”と説明する園もあります。本当にそうなのでしょうか?
ゾウライド事態を否定する気はありません。実際に日本でも一部の動物園で行っていますし、他の国でも合法的に行っています。しかし、それらの多くは少人数や短期間でのライドであり、ゾウ自身の負担も少ないとされています。しかし、タイの施設の中には、効率的にお金を稼ぐために長時間、大人数でライドを行う施設もあります。
こちらはHua Hin Safari and Adventure Parkのゾウライド。1頭のゾウで1日100人以上も乗せることもあるそうです。


こちらは、Pattaya Crocodile Farmのゾウ達。全頭が終日鎖に繋がれ、鼻で握手等のふれあいイベントを行っています。


これらは、本当にゾウが望んでいる事なのでしょうか?更には、“ゾウの保護施設”という名目で営業し、同様のゾウライド等ゾウの負担の大きいアクティビティを行っている施設もあるようです。
危険な動物が目の前に!本当に安全?
タイの動物園の中には、大型の肉食獣や霊長類等の危険な動物を身近に感じられることを売りにしている園もあります。



先述したゾウやトラもそうですが、他にもワニ、オランウータン、ウンピョウ、ライオン等に来園者が非常に近い距離で接しているのを見てきました。
ゼロ距離ウンピョウ!まるでネコ?
こちらは、Monster World Pattayaでの写真。このウンピョウは、ふれあいイベントも行っていて、動物に触って写真撮影も可能でした。


また、館内を散歩し、時には飼育員を振り切りノーリードで走り回っていました。付き添いの飼育員は手ぶらな女性1名。まるでネコのようにお客さんにすり寄っていました。
まるで人間?自由すぎるオランウータン
こちらはオランウータン。Hua Hin Safari and Adventure Parkでふれあいや記念写真のイベントの為に、飼育員と待機中の一コマです。園内の野外ですが、脱走を防止するようなものは一切ないので、余程動物を信頼しているのでしょう。撮影エリアの中では自由に動き回っていました。


こちらで紹介した動物は氷山の一角です。万一何らかの理由で彼らが来園者に牙をむいた際に、どのように防ぐのでしょうか?
カフェにキリン?厨房にライオン?規制を潜り抜ける施設
アニマルカフェと聞いて、みなさんはどの様な動物を思い浮かべますか?古くからある猫カフェは有名ですよね。他にも、近年増えてきているフクロウカフェや爬虫類カフェなどもありますよね。
日本では、行政の許可を取る際に、動物園のように“動物を展示する施設”として申請する際はハードルが高く、特にトラなどの猛獣を展示するとなれば、更にハードルは上がります。逆に、アニマルカフェのように“動物がいるけど本業は飲食店”として申請すると許可のハードルが下がります。これはタイでも同じようです。
バンコク市内から車で1時間ほどにある”Cafe Mini Zoo Garden River 8″という施設は、驚くような営業形態が特徴的です。


まず、入り口でカフェへの入場券を購入します。これでインコやヤギなどがいる飲食店への入場が可能です。ここまでは普通のアニマルカフェですね。


問題はここから。カフェの隣には、偶然にも動物商が運営する動物の非公開保管施設があります。そして、偶然にもカフェとその施設を繋ぐ通路があります。動物商の施設に入ってもスタッフは誰も止めませんし、むしろ“あっちにも動物がいるよ”と親切に教えてくれます。更に、“非公開施設”のはずなのに展示場に種名板はあるし動物の餌も売っています。


勘の良い方は既にお気づきでしょう。この施設は、インコやヤギのいるカフェとして比較的簡単な営業許可を取り、たまたま隣にある非公開施設でキリンやトラを実質展示しています。名目上は非公開施設のため、形式を保つために両施設を繋ぐ通路には小さく“この先立ち入り禁止”と看板がありますが、読んでほしくないと言わんばかりの小ささです。




しかし、オープンした後は行政のチェックがないのか、境目はかなり緩いように感じました。カフェの厨房を覗くとライオンの赤ちゃんがいましたし、公式SNSでも一体の施設のように書かれています。





あなたはこの営業形態を“戦略的で商才がある”と感じますか?
それとも“脱法的で卑怯”と感じますか?
密輸の拠点?タイの動物取引市場の闇
ペットショップでフクロモモンガやヨツユビハリネズミ等の小動物を見たことある方は、“タイCB”と記載されている、タイで繁殖されて輸入された個体に気づいたのではないでしょうか?小動物の一部の種では、数年前まではかなりの割合がタイから輸入されていました。現在は国内繁殖に切り替わりつつありますが、依然としてタイ産の個体は流通しています。


実はタイは、アジアにおける動物取引市場で大きな役割を担っており、特に希少動物の売買が盛んに行われています。繁殖させた動物のペットショップや動物園などへの販売であれば、法的には問題ないかもしれません。しかし、それが野生由来や出所不明の希少動物だったらどうでしょう?動物園の中には、由来不明な動物の購入を躊躇するところもあります。また、種によっては、野生由来の動物は取引できないが飼育下繁殖個体なら取引可能なものもいます。
まるでペットのショールーム?謎多き動物園
このような出所不明の動物の取引に加担しているとされているのが、実は動物園だと言われています。一部の動物園は、出所不明の動物を預かり、一定期間飼育した後に園の繁殖個体として市場に流通させる行為、通称“アニマルロンダリング”を行っているとされています。
私は訪れた動物園の中にも、このような特徴を持つ動物園がありました:
- 短期間で希少動物の展示が入れ替わる
- 由来不明の希少動物を数多く飼育している
- 気に入った動物を購入できる
実際に不法な動物の取引にかかわっていた証拠はありませんが、私を含め訪れた人の多くがその疑惑を持った動物園でした。なお、この動物園は過去に営業免許の不所持や動物虐待の疑惑等の理由で行政により強制的に閉鎖されましたが、その後営業を再開しています。
出所不明の珍獣たち
タイの動物園では、世界を見渡してもほとんど飼育されていない珍しい動物が飼育されていることもあります。こちらは世界的に見ても飼育例が極めて少ないノドジロミユビナマケモノ。


“原産国からの輸出は不可能”とまで言われている珍獣ブチクスクス。


国際的に取引が厳しく制限されているコモドオオトカゲ。







これらの動物はどこからどのようにやって来たのでしょうか?
動物取引の主要拠点?バンコクの市場
動物たちはどこで取引されているのでしょうか?動物好きの方であれば、バンコク市内にある「チャトゥチャック・ウィークエンド・マーケット」の名前を耳にしたことがあるかもしれません。ここは複数のエリアにまたがり、約15,000件もの店舗が並ぶ巨大市場で、“世界最大のウィークエンドマーケット”ともいわれています。中でも、動物商が集まる“ペットエリア”は特に有名で、市場の公式サイトなどでも希少な動物の売買がアピールされています。
主に取引されているのは、犬や猫のほか、フクロモモンガやフトアゴヒゲトカゲなど、ペットショップでもよく見かけるエキゾチックアニマルです。アジアの動物取引市場の中でも最大級とされ、一部は日本にも輸出されており、みなさんの身近なペットショップにいる動物の中にも、この市場で取引された個体がいるかもしれません。
しかしこの市場、実は以前から違法な動物取引の温床としても知られており、過去には摘発された例もあります。現在では、昔のように表立った違法取引は見られなくなったとされていますが、最近になってもゴリラの不法取引に関与していたという話があり、今もなお黒い噂が絶えない場所です。



私が初めて訪問した2005年頃は、ゾウやヒョウなどを表立って販売していたのが記憶に残っています。
私たちにできること
この記事をここまで読んで、どのように感じましたか?日本人からしたら、行ったこともない遠い国の出来事かもしれません。しかし、実はこの動物たちの状況は、私たち日本人にも無関係ではないんです。
動物とのアクティビティは事前に確認を!
タイでのトラやゾウとのアクティビティは、主に観光客をターゲットとしたビジネスです。そしてその中には、少なからず日本人観光客も混じっています。タイへの観光の際に、ゾウライドやトラとのふれあいをやりたいと思っている方もいるかもしれません。動物の保護施設とされる場所だから安心だと思ってアクティビティに参加した方もいるかもしれません。しかしながら、保護施設を偽装する動物ビジネスも多くあるのが現状です。
ペット用の輸出、実は日本にも!
ペット業界はどうでしょうか?実は過去に日本はタイから輸出される動物(家畜を除く)の主要な輸出先の一つとされていました。先述した小動物等の合法的な輸出の他に、不法な密輸も多く摘発されています。
過去に報じられたスーツケースに入れられてタイから密輸されそうになったカワウソのニュースは、その衝撃からみなさんの記憶にも残っているのではないでしょうか?また、現在海遊館等の国内の一部施設で飼育されているコツメカワウソは、タイから密輸されて税関で摘発された個体なんです。
ILLEGAL OTTER TRADE IN SOUTHEAST ASIA
https://www.wwf.or.jp/activities/data/20180620_wildlife01.pdf
現在は規制が強化され、密輸は減っているとされています。しかし、この記事を執筆している前日にも、タイが絡む動物の密輸事件が報道されました。このように近年でも、タイから日本への動物の密輸は後を絶たちません。
おわりに


いかがでしたでしょうか。
記事の内容は少しショッキングだったかもしれません。しかし、記事の冒頭でもお伝えしたとおり、私はこの記事で特定の誰かを批判したいわけではありません。現実を知ってほしいという気持ちで書いてみました。
もちろん、タイの全ての施設がこのような状況ではありません。今回の記事では個人的に感じた負の側面を紹介したので、次回の記事では良い面を紹介したいと思います。



タイの動物たちが少しでも良い環境で過ごせることを願っています!

