絶滅寸前 CR の動物たちを救いたい


こんにちは。二枚貝ホタテと申します。
前回執筆した記事では、上野動物園の「パンダのもり」について書きました。

この記事の中で、絶滅危惧種の中にも深刻さによってランクがあること、ジャイアントパンダは VU というランクに指定されていること、レッサーパンダやトラはもっと危機的な EN というランクであること、ゴリラやオランウータンは特にピンチな CR であることをお伝えしました。特に深刻な CR の動物として、マルミミゾウ、クロサイ、ゴリラ 2 種、オランウータン 3 種、カカポ、シロワニを紹介しましたが、このほかにも CR の動物がいます。今回の記事では CR の動物を 7 種類取り上げます。どれも国内の動物園・水族館で観察できますので、足を運んだ際はぜひ見ていただければ幸いです。


IUCN のレッドリスト

絶滅危惧種のランクづけはいくつかの組織が行っています。今回見ていくのは IUCN(国際自然保護連合: International Union for Conservation of Nature)のレッドリストです。
IUCN では定期的に生物の研究者が集まって、生物がどれくらい絶滅の危機にあるかを 8 つのランクに分けて評価しています。

IUCN 以外にも環境省や各都道府県が絶滅危惧種の評価をしています。こちらもぜひ注目していただきたいのですが、今回は IUCN のレッドリストだけを考えましょう。

IUCN が作るレッドリストのランクを簡単に説明するとこうなります。

EX: 絶滅

もうこの世界にはいないとされている

EW: 野生絶滅

野生には生きていないが、人に飼育や栽培されて生き残っている

CR: 深刻な危機

野生で極度に高い絶滅のリスクに直面している

EN: 危機

野生で非常に高い絶滅のリスクに直面している

VU: 危急

野生で高い絶滅のリスクに直面している

NT: 準絶滅危惧

近い将来、CR〜VUの絶滅危惧種になりえる

LC: 低懸念

絶滅のリスクが低くCR〜NTに入らない

DD: データ不足

絶滅しそうか判断するためのデータが足りない

なお、具体的にどんな基準でランクを決めているかは複雑なので、この記事では割愛します。

野生にいる生物で最も危機的なのが CR です。しかし、野生に少ないからといって、動物園・水族館にいないというわけではありません。むしろそうした希少な動物を飼育し、研究し、増やすことは現代の動物園・水族館の重要な使命です。それでは、日本の動物園・水族館で見られる CR の動物を見ていきましょう。


たくさんいるのに希少なペンギン

まずはケープペンギン。日本全国の動物園・水族館にいるペンギンです。東京近郊だけでも上野動物園、サンシャイン水族館、アクアパーク品川、八景島シーパラダイス、千葉市動物公園で飼育されています。

ケープペンギン(サンシャイン水族館)

こんなに普通にいるペンギンが絶滅危惧種?という感じですが、ケープペンギンは現在ペンギンで唯一の CR。つまりペンギンの中で一番まずい状況だといわれています。

ケープペンギンはアフリカンペンギンとも呼ばれ、アフリカに生息する唯一のペンギンです。南アフリカのケープタウンの街中でも繁殖していて、人家の庭で堂々と子育てをしているんだとか。

ですが、その個体数は恐ろしい速さで減っており、100 年間で 97% 減少したと推計されています。2024 年秋、IUCN はケープペンギンのランクを EN から CR に変更し、「あと 4000 日ほどで野生から消滅するだろう」と警鐘を鳴らしました。減った原因は多岐にわたりますが、その一つは営巣地の破壊です。海鳥のフンなどがたまってできた「グアノ」は良質な肥料として採掘されてきました。また、タンカーの事故による重油の漏出、漁業による魚の減少も深刻です。

ところで、池袋にあるサンシャイン水族館には「アクアリウムクラブ プレミアムプラン」という有料会員制度があります。2025 年春、プレミアム会員限定のイベント「ペンカワークショップ」に参加しました。そこでは水族館での飼育の裏話や体の特徴の話、そして野生のケープペンギンが直面する危機が伝えられました。水族館は楽しく遊ぶレジャー施設であると同時に、自然が直面する悲しい現実を発信する教育の場所でもあります。

サンシャイン水族館で2025 年10 月14 日に誕生した「まろん」生後4日後の様子

今回の記事はサンシャイン水族館が2025 年4 月に発信しているニュースレターを参考に書きました。こちらも併せてお読みください。
https://co.sunshinecity.co.jp/archives/007/202501/fb05f5b11504a8556a4119873426f95aa6ae81c7555d1a5f4f0983174d9dd15a.pdf


純白の鳥たち

続いての舞台は東京都日野市にある多摩動物公園。入園してそのまま真っ直ぐ坂道を上ると、真っ白な羽毛で身を包んだ巨鳥、ソデグロヅルが出迎えてくれます。

ソデグロヅル(多摩動物公園)

名前に「黒」とついていますが、黒いのは服の袖、もとい翼の先だけ。翼を閉じている時はまさに純白です。ちなみに水辺で暮らす大きめの鳥には白い種類がたくさんいますが、なかにはソデグロヅルのように翼の先端が黒いものも結構います。翼の端は物に衝突しやすく、ここだけメラニン色素でコーティングすることで丈夫にしているという説もあります。

そんなソデグロヅルですが、渡り鳥のため様々な国がそれぞれの湿地を残さないと守ることができません。また、乱獲の憂き目に遭いました。この貴重なツルを守るため、多摩動物公園を含む全国の動物園が協力し、人工授精の技術開発を進めています。

純白の鳥といえば、カンムリシロムクも CR に指定されています。

カンムリシロムク(ズーラシア)

インドネシア・バリ島にのみ生息する小さなムクドリの仲間です。よこはま動物園ズーラシアや静岡市立日本平動物園などで展示されています。ペットにするため乱獲されたことで減少しました。その野生個体数は 700 羽ほど。動物の個体数としては極めて少ない状況です。それでも、2002 年には 6 羽しかいないといわれていましたので、なんとか回復してきたといえます。

カンムリシロムク(ズーラシア)

ソデグロヅルも、カンムリシロムクも、白い羽毛が大変美しい鳥です。しかしその美しさゆえに乱獲されてきた歴史があります。命を奪って楽しむのではなく、動物園で繁殖させながら、その美しさを堪能したいものです。


戦争の犠牲者は人間だけではない

美しい鳥といえば、キジの仲間のオスも大変魅力的です。金属のような光沢を放つキラキラの羽毛。光の当たる角度によって無限に色を変える、一瞬として同じ景色が再現されない、一期一会のアートです。

ベトナムの森に生息するコサンケイは、オスの青黒い羽根が特徴的なキジの仲間です。顔は赤く、頭の上には白い冠羽が生えています。キジ目の多くと同じように、メスは保護色になる茶色い体をしています。

コサンケイ(上野動物園)

コサンケイが減少した主因は、1955 年から 1975 年のベトナム戦争です。この戦争で米軍は敵が森に隠れることができないよう、植物を枯らす毒薬「枯葉剤」を散布しました。枯葉剤にはダイオキシンが含まれ、ベトナムの土壌を汚染しました。森が失われただけでなく、終戦から 50 年が経った今なお野生動物と人に多大な悪影響を及ぼしています。

コサンケイはベトナム戦争によって絶滅したと考えられていましたが、1997 年に再発見されました。しかし 2000 年に密猟されたのを最後に野生の個体は発見されておらず、やはり絶滅したと考えられています。動物園で飼育されている個体は戦争の前に捕獲された個体の子孫たちです。動物園が繁殖させてきたことで生き延びたコサンケイ。いつか野生に戻る日が来るかもしれません。


美しい伝統工芸品の闇

ここからは爬虫類と両生類です。まずはウミガメの仲間。ウミガメは 7 種(または 8 種)いるとされており、そのうちタイマイとケンプヒメウミガメが CR です。タイマイは水族館でも飼われていることがある種類で、甲羅のおしり側がギザギザしていたらタイマイの可能性が高いと思います。Hawksbill sea turtle(鷹のクチバシのウミガメ)という英名のとおりクチバシが大きくて鋭く、岩に固着する海綿動物を啄むようにして食べます。

タイマイ(仙台うみの杜水族館)

タイマイの甲羅は美しい模様があります。この甲羅を使った伝統工芸品が鼈甲です。鼈甲の材料として、また他にも肉や卵を食用とするために乱獲されてきました。

タイマイを含むウミガメは、CITES、いわゆるワシントン条約で附属書 1 に記載されています。商業的な輸出入は規制されているのですが、密輸が横行しています。美しい伝統工芸品の鼈甲ですが、希少なウミガメの乱獲と密輸という犯罪を引き起こしているのです。


唯一無二のアリゲーター

ティラノサウルスが生きていた時代から現代にいたるまで、水辺の王者として君臨してきた動物、ワニ。しかし人間の活動はワニをも減らしています。

ヨウスコウワニ(天王寺動物園)

ヨウスコウワニは中国の揚子江に生息するワニです。一説には伝説に登場する龍の正体とも言われ、文化の観点からも興味深い動物です。そのうえ生物学的にも大変面白い特徴があります。

現在地球上に生きているワニは 3 つのグループに分かれます。まずはクロコダイル科。世界最大のワニであるイリエワニを含む科です。それからガビアル科。水の抵抗が少ない細長い口を使って速い魚を捕まえるのが得意です。そしてアリゲーター科。アリゲーター科は北米・中米・南米に生息しています。・・・ただ一種を除いて。それがヨウスコウワニです。アメリカではなくアジアにいるヨウスコウワニの存在は、ワニの進化の歴史を考えるうえでも大変重要です。

しかし揚子江は開発による生物多様性の損壊が激しいのが現状です。かつてこの川には珍しい淡水のイルカであるヨウスコウカワイルカがいましたが、2002 年を最後に生息が確認されておらず、絶滅したとされています。

大阪の天王寺動物園では、貴重なヨウスコウワニの繁殖に成功しています。私が 2025 年 3 月に訪れた時もワニの子供を見ることができました。(天王寺動物園には他にもワニが飼育されているので、もし他の種類だったら申し訳ありません。)

天王寺動物園のブログでは、ヨウスコウワニの繁殖の経緯が飾らない等身大の言葉で綴られています。ぜひお読みください。

ワニの子供(天王寺動物園)

誰でも飼える絶滅危惧種?

最後に紹介するのは、メキシコサラマンダーです。
別名アホロートル。日本ではウーパールーパーと呼ばれています。

ウーパールーパー(横浜開運水族館フォーチュンアクアリウム)

両生綱有尾目という、サンショウウオやイモリの仲間です。本来は子供の頃だけ水中で暮らし、大人になると上陸するはずの生き物です。しかしウーパールーパーは子供の頃に顔から生えているエラ(バランサー)が大人になってもなくなりません。エラ呼吸をし続け、水中で暮らしたまま繁殖能力が発達します。子供の姿を残したまま大人になる現象を幼形成熟、ネオテニーといいます。

日本では飼育下で繁殖された個体が流通しており、ペットショップに行けば数千円で購入できます。
特に白い個体が多いですが、他にも黄色い個体や黒い個体、体の左右で色が違うもの、胴体が短い「ウパルパ」などの品種改良も盛んです。

しかし野生ではどうでしょう?彼らの生息地は壊滅的な状況です。メキシコのソチミルコ湖周辺の限られた範囲にしか生息しておらず、開発によって破壊されています。


絶滅危惧種と私たち

動物を愛するうえで、悲しい情報というのはなかなか受け入れ難い話です。理想をいえば環境破壊・乱獲・戦争といった、人間の身勝手な横暴のせいで動物たちが死んでいるという話からは目を背けたいですよ。動物のかわいい・美しい・かっこいい姿を見て純粋に楽しむだけの方がよほど幸せです。ケープペンギンやウーパールーパーのように、野生では深刻な危機に陥っていても、日本ではたくさん飼われている動物もいます。もしも野生個体の数が 0 になっても、我々は動物園・水族館に行けば彼らの姿を見て楽しむことができます。

事実、コサンケイは野生絶滅したといわれていますが、動物園に行けばその美しく輝く羽根を簡単に見られます。
それでも、動物たちとこれからも共に生き続けていくために、人間によって危機に晒されている動物たちの耳が痛くなる現状から目を背けてはいけないと思います。

動物園・水族館で飼われている動物たちが幸せに暮らしていて、繁殖して個体数が増えているとしても、だからといって私たちの目に映らない野生で苦しむ動物たちを放置していい理由にはなりません。

生き物を本来の生息地で守ることを域内保全といいます。逆に生息地の外にある動物園などに生き物を運んで守ることを域外保全といいます。動物園・水族館は域外保全に努めていますが、域外保全は万が一野生にいなくなってしまった時の保険です。「火災保険に入っている家なら放火して燃やしてもよい」とはならないように、動物園にいるから野生で減っても別に構わない、域外保全をがんばっているから域内保全をしなくてよい、という免罪符にはならないのです。

そして自然界の生き物は一種で生きているわけではありません。有名な野生動物が減るということは、同じ空間で生きる他の生き物もピンチなはずです。ケープペンギンが絶滅危惧種になった原因の一つは同じ海に暮らす魚たちも減っているからであり、野生のウーパールーパーが減っているなら同じ湖に生きる他の多くの生き物たちも危機に陥っていることでしょう。

有名な動物が自然界で減っているらしいけど飼育下で生きているから OK、ではなく、その生息地では他にも減っている生物がいるのではないか?と考えるべきでしょう。

もし動物園・水族館に行って、動物を解説するパネルに「絶滅危惧種」「CR」といった単語を見つけたら、彼らが野生ではどんな環境で生きているのか、そしてどのような状況なのか、どんな生き物と暮らしているのか、私たちに何ができるか、ぜひ考えてほしいと願います。


参考文献

IUCN レッドリスト
https://www.iucnredlist.org/

多摩動物公園 ソデグロヅル
https://www.tokyo-zoo.net/tama/encyclopedia/siberian-crane/index.html

埼玉県こども動物自然公園 絶滅危惧種のコサンケイ
https://www.parks.or.jp/sczoo/blog/entry/004552.html

天王寺動物園 コサンケイの魅力をお届け
https://www.tennojizoo.jp/blog/26847/#gsc.tab=0

日本へ向けたタイマイ(ベッコウ)の違法取引に関する報告書を発表
https://www.wwf.or.jp/activities/lib/4632.html

ナショナルジオグラフィック メキシコサラマンダー(アホロートル)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/429033/


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この記事を書いた人

生物が好き。ポケモンと謎解きゲームも好き。