ZooPortalでは、2026年8月1日に「第一回~元飼育員に聞く~オンライン質問会」を開催しました。
当日は、事前に皆様から募集した質問をもとに、ZooPortalが司会進行を担当。元飼育員のウナムゲンさんに、飼育員として働いてきた中での経験や、飼育員を目指す方へのアドバイス、動物園業界について感じていることなど、さまざまなお話を伺いました。
学生の皆様を中心にたくさんの方にご参加いただき、社会人の方の参加も多く、中には動物園関係者の方もお忍びで参加されていたそうです。
この記事では、当日参加できなかった方にも質問会の内容を知っていただけるよう、当日のやり取りをまとめてご紹介します。これから飼育員を目指す方はもちろん、動物園やそこで働く人たちのことをもっと知りたい方にも、何か一つでも参考になることがあればうれしいです。
自己紹介~ウナムゲン~
ウナムゲン改めまして、皆さんこんにちは。今回は本企画にご参加いただきありがとうございます。
私は普段、ウナムゲンとしてSNSで情報発信をしています。静岡県の出身ですが最初に勤めた静岡県内の動物園で、10年程飼育の基礎を学びました。その後、他の動物園の方からお声かけいただいたこともあり、複数の動物園に移籍し、通算27年ほど飼育に携わっていました。
現在は、飼育員としての経験を中心に情報発信をしています。
担当動物としては類人猿の経験が長く、オランウータンを中心とした大型類人猿やテナガザル等を通算で18年程飼育しました。他にも担当した動物がいますが、下記に記載しています。


- オランウータン
- チンパンジー
- ゴリラ
- キツネザル類
- リスザル
- ライオン
- チーター
- ホッキョクグマ等クマ類
- カピバラ
- ビーバー
- ニホンジカ
- カモ等水禽類
- ハシビロコウ
- ペンギン類
などなど…
他:ハリスホーク等のフライト、チーターの採血などハズバンダリートレーニング
また今回この企画を行って下さったZoo Portalさんとは、昨年末に大型類人猿についての研究や保全についての講演が行われるSAGAシンポジウムという会議の場において共同で私の飼育経験をまとめ、ポスター発表も行っています。
まず学生に伝えたいことは?
まず動物飼育では、飼育員が動物の状態を日々把握して、判断していかなくてはなりません。
新人の頃はまだ経験が浅いので、見ていても動物のことが分からず先輩の飼育員や獣医師に判断を仰ぐことがあると思います。それでも、自分が担当する以上は主体性を持って取り組まなくてはいけません。自分の意志を持ち、集中して向き合うことで、自分の観察力・飼育技術は向上していきます。そのためには、集中して継続することが非常に大切です。個人により多少の差はありますが、5年ほどしっかり取り組めば飼育の基礎が身についてくると思います。
また、飼育現場において大事なのは、自分自身が安全に職務を果たすことです。
確かに、動物は非常に魅力的でかわいらしい存在かもしれませんが、現場ではもっと本質的な彼らの姿と向き合うことになります。


飼育動物は常に安定しているわけではありません。動物が興奮していたり不安を感じていたりするような時には飼育員に対して攻撃性を示すこともあります。もし自身が攻撃を受けてしまった場合には、大怪我や死亡につながることもあります。もちろん、私自身も危険な場面に遭遇しましたが、とにかく油断せず、自らが負傷しないように常に意識して臨んでください。
獣舎の構造も重要です。もし獣舎の隙間が大きくて動物が手足を出せる場合は攻撃を受ける可能性があります。こういう施設の構造なども理解した上で、自分がきちんと安全に意識を向けられるかが飼育管理においては重要です。動物の本来の姿をきちんと理解した上で、動物に対して愛着を持ち丁寧に飼育できたならば、その積み重ねによって動物との関係性も良くなると思います。
また安全を重視するということは、自分自身の身を守るためではなく、動物を守ることにも結びついていきます。
担当する飼育員が周囲の状況に敏感に意識を向けていれば、飼育動物もしっかりそれを感じ取っています。そのうえで飼育員がまた飼育動物に対して安心できる環境を提供していけば、動物との関係性もより深くなっていきます。このような努力の継続は非常に重要なことで、動物が安心でき、状態が改善されることは動物福祉の充実にもつながっていきます。まずはそのことを理解しておいてほしいと思います。



ここからは、事前に皆様からお寄せいただいた質問について、ウナムゲンさんに回答していただきました。
飼育員を目指す上で大切なことや、就職活動で取り組むべきことは?
一つに絞るのは非常に難しいですが、例えば動物を見る観察力とか、やっぱり仕事ですので関わるスタッフとのコミュニケーション力とか..どれか一つに絞るのは難しいことですけれども、あえて挙げるなら、情報収集・分析能力を挙げます。例えば就職する上で○○動物園で募集が出たとか、職場の状況や給与などの情報は比較的集めやすいと思います。しかし、それだけではなく、もっと業界全体の情報をあらかじめ集めて分析する方が将来的に自分のためにもなります。もし自分が飼育員になった場合、担当したい動物種がいるなら、実際にその動物を担当している飼育員に会い、あるいは繁殖計画を立案している種別調整者に会ってみるなどして、とにかく情報を集め、人と会い、その動物の飼育に対する考え方なども聞いてみると良いと思います。
飼育動物によっては国内での飼育方針が比較的定まっている場合もあれば、考え方が割れていて飼育員間で派閥ができている場合もあります。海外と国内の情勢などの違いにも視野を広げてみることも大切な点です。そのような背景もあることを想定しながら情報を集めてみると飼育に対しての理解が深まると思います。
最初にもお話しましたが、こういう風に普段から主体性を持って動物や飼育に対して向き合っていますと、就職試験の面接などで質問を受けた時には普段から意識して取り組んでいることが自然に言葉で説明できると思います。もちろんまだ現役の飼育員になってはいないですが、感覚的には自分は現役の飼育員と同じくらい情報を収集している姿勢を面接の場でも示せるはずです。過度に緊張するようなことがなければ、その姿勢は面接官にも良い印象を与えられると思います。
事前に情報収集する場合は、自分なりに深く掘り下げてみてください。
また情報は、多くの人に会わなければなかなか得られません。誰においても同様ですが、多くの人と会うことでコミュニケーション力は磨かれます。
自分はあまり人と会うのは得意でないと感じていても、動物を知りたい気持ちがあれば不器用でもいいので、人に会ってみてください。多くの動物を相手にしてる飼育員さんっていうのは、言葉を発さない動物と付き合ってますので、この子は何かしらのやる気があるな、知りたいなっていう部分を汲み取ってくれて、必ず何かしら話をしてくれたりします。
人と会い、自分自身でしっかり受け止めて、情報を集めるというのは非常に価値があります。繰り返しになりますが、情報を分析するには自ら考える必要がありますので、思考する力を高めていきます。これは就職試験だけでなく、将来目指すであろう飼育員においても同様です。観察力を磨く上ではただ目で見てるだけではなく、「なぜだろう」と考える力が非常に求められますので、そのような面においても役立つと思います。
就職する前に業界内に人脈や情報網を構築するくらいのつもりでやってみるといいと思います。
飼育員になる前後で感じた、理想と現実のギャップは?
私が最初に就職したのは、30年ほど前です。当時採用された時は今のように飼育員とは呼ばれず、飼育業務員と呼ばれていました。いわゆる肉体労働や単純作業を担う職種として認識されていました。実際、私自身動物園に入って一年目ぐらいの時に獣舎の清掃をしていたら、ある入園者の方から
よくこんな臭くて汚い仕事しますね…私は無理です
と言われたことがありました。当時は社会的にもそうした認識だったのだと思います。でも私は就職するにあたって、動物の飼育員は専門家であると理解していました。そういう現状を目の当たりにして、非常にショックでした。
ほかにも、飼育の基本は動物を観察することですが、観察には時間が必要です。基本的には動物を展示場へ出してお客様に見ていただき、その後寝室へ収容するというシンプルな行動管理を行います。しかし、動物が警戒してしまったりするとスムーズにいきませんので、そういう警戒心を解くために動物とコミュニケーションを図ったりもします。そのため、私も獣舎で過ごす時間も長く取っていましたが、その時の上司からは、
ペット化してる!!私物化してる!!
と言われたことがあります。
自己紹介でも話した通り、当時はちょうどオランウータンやチンパンジーの人工保育が重なっていました。彼らは我々ヒトに近い動物ですので子育てと同じで、子供を抱き上げるのは当然です。しかし、理解のない人にはその姿が誤解を与えてしまい、さらに「私物化」「ペット化」と言われることもありました。
また当時動物と丁寧に向き合っている飼育員さんは公には自分は専門性があるとは言いませんでしたので余計に社会に理解を得られる機会は少なかったと思います。
しかし実際の業務としては精度の高さがないと扱えない動物もいましたので動物園の実態は専門性が常に求められる現場でした。
その後私が飼育員になって数年程経ってからですが、国内の多くの動物園や水族館が加盟する日本動物園水族館協会が先んじて発展していた欧米の動物園の状況も踏まえながら国内でも動物園の専門性について情報発信する方向に進んで行きました。その時には肉体労働者というイメージのある飼育業務員からイメージを一新した「飼育員」という呼び方が浸透していった印象があります。
また飼育員は動物を扱う専門性のある仕事なので、これからは入園者への動物のガイドなど教育的役割を果たすのは動物園の業務として必要という認識も業界内に広まっていったと思います。
上司からも入園者に対して積極的に話をしていけと言われた時は大きな変化と驚きを感じました。
今では飼育員が人前で話すのは当然の認識かもしれませんが当時は、その先駆けだったなと思います。



時代が変わったというか、非常に良い方向性に時代が動いていったなっていう風に感じたのは、今でも印象深いですね。
夜行性動物を屋内・屋外のどちらで展示するか、どのように決めていますか?




夜行性動物と言われていても、実際には屋外で展示されることもあったり、夜行性獣館など専門的に分けて展示することもあります。これは、夜行性動物の中でも、特に夜の生活に適応し日中の明るい時間帯は巣穴などに入ってしまう動物では明るい所で展示したときの展示効果は薄くなってしまいます。一方で、夜行性だと言われつつも状況によっては朝方や日中にも活動するタイプの動物もいます。そういう場合は日中の展示も可能ですので、屋外で展示することもあると思います。
このように展示効果というのは、各動物園でどういう風な展示動物を揃えたらいいか・どういう区分けをしたらいいか考えた上で獣舎設計などを行います。明確に基準というのはなく、各園館の飼育動物に対する考え方や予算配分などによって決まってくると思います。




例えば、小型のネコ科動物ではベンガルヤマネコなどは夜間展示の方に展示されてる場合もありますが、ツシマヤマネコやアムールヤマネコなどは普通に屋外展示場にいたりします。やはり実際展示動物を見てみると、園館によって考え方が異なることがよく分かると思います。
飼育員を目指したきっかけは?
私は子供の頃から動物が好きでした。
母方の祖父母が養豚業をやっていましたが幼稚園児の頃から成獣の豚など大型動物を見たり、祖父母が世話をしたりするところをよく見ていました。
種付け用のデュロックという品種の雄豚がいる檻にわざと入って、寄ってきたら逃げ出したりとか、そんなイタズラもしていました。そんな風でしたので子供の頃から動物に触れる機会が多かったと思います。
中学生の頃には、ジャーマンシェパードを飼っていましたが警察犬の訓練方法を学びたくて、実際に警察犬訓練士さんを訪ねて指導を受けた事もありました。
その後農業高校に進み就職する頃に、ちょうど近隣の動物園で飼育業務員の募集が出ていました。当時も動物に関心があったので自然な流れで試験を受けて運良く採用されました。
飼育員の採用試験はどのような内容でしたか?
基本面接と学科試験でした。面接では最近のように、飼育を専門職とする認識が採用側にはなかったので、体力的に自信はあるか、やる気はあるかとか就職する上で、ありきたりなことを聞かれたと思います。その為動物や飼育に対しての深く掘り下げられた質問をされた記憶はありません。
学科に関しては、今から30年近く前なので、そんなに難しくはなかったかと思います。多分高校卒業程度ならば解答出来る内容の問題だったなという風に思います。現在は飼育員の専門性が認められている事と希望者も多いので学科の試験もハードルが高くなってると思います。
今、自由に職業を選べるなら、どんな仕事を選びますか?
このようなことは考えたことがありませんでしたがやはり私自身、生き物を観察して状態を判断するような仕事は、肌に合ってると思っています。
生き物に関わるということに関連するかもしれませんが高校の時に陸上部のマネージャー的なことをやっていたんですが、その時に陸上選手のマッサージを行うということもありましたが、延べ700人ぐらいにマッサージを行っていました。マッサージも人の体に触りますので、人という生き物を観察していたと思います。700人も揉んだりしてますと、触った時に足の筋肉の凝り方に違和感があると、色々と思いを巡らせていました。今日は坂道を走ったのかもしれない、あるいは右足を痛めているから逆の左足に余分に力が入っていたかもしれないとか自分なりに段々と色々な事が分かるようになっていたと思います。
この様な自らの経験を振り返ってみても生き物と接する仕事が自分には合っているのだと思っています。
現在、動物園を離れて活動している理由は?
私自身、実は二年前までは飼育員として働いていました。改めてですが動物飼育は非常に幅広い仕事です。動物園も水族館もあるように、対象となる動物は非常に多く、とても一人の飼育員で全種を飼育する経験は積むことができません。その中で私は大型類人猿などある一定の範囲の動物に関しては、深く関われたのかなと思います。しかしそれでも飼育員としての経験は限定的だと思っています。
しかし、その限定的な経験であっても飼育の基本は観て考える事、主体性を持って取り組む事は良い先輩方の教えももあったので身に付けてこれたとは思います。
そこを踏まえた上での話しになるのですが、意外に業界内では「本当の飼育とは何か」を知らない方が多いと思いました。先程述べた飼育の基本については私は教えを受けた事もあり当たり前と思っていたんですが、その様な意識や考え方について聞いたり教えられないまま飼育を続けている方もいる印象を受けました。
それは結果として先輩から教えてもらう機会がなかった場合もありますが、これには動物園における組織内の状況も一部影響はあると思います。
飼育方針に対して何かしらの結論を出す時に複数人で協議するので主体性を持ちにくくなり、どうしても相手の意見を伺いながら、動物に関して判断してしまうので、自分でその動物の状態を見て決断する事に自信が持てない、実際動物を担当して何か課題が生じたときに、その動物に対してどうすればよいか、対応策を考えられないような若手職員もいるようです。また知人の飼育員からも同様の話を聞いた事もありました。私は現在SNSで動物飼育について発信していますが、その様な相談を実際に受けた事がありました。
私は本当に有り難い事に最初に就職した動物園でお師匠と言える方ともお会いできましたので、飼育とは何かを深く教えていただきました。しかし全国を見渡しますと具体的に飼育員の教育の体制が整っている職場ばかりではないと感じます。飼育ってどういうものなのか伝わらないまま普段の忙しい業務の中に入ってしまうと、自分を見つめ直し考える機会も少ないのかもしれません。
そんな現状を見て、もっと飼育についてお伝えできる場はないのかなと思っていました。迷うところもあったんですが今は思い切って現場を離れて比較的自由な立場で情報発信を行なっています。組織に縛られない立場で、組織の垣根を越えて自由度のある立場で活動をしたり発言するのは挑戦ですが今は継続していきたいと思っています。
動物園の常同行動は、来園者にどのように伝えるべきですか?
実際私も担当していた動物の中には常同行動が発現している動物もいました。常同行動は、動物に何らかの不安要素があるとだんだん行動自体が定着してしまうことがあります。一度定着してしまいますと、その後に状況を改善したからといって、完全には解消しない場合もあります。
私が担当していたクマでは、日中の展示中も採食時間を増やしたりしてました。しかし展示場から寝室に戻るときに、不自然に首を振ったりなどの行動が発現しました。


定着してしまうとなかなか完全になくすことは難しいので、動物園に行ったとき、常同行動が見られたから現在の飼育環境が悪いと即断するのは早計だと思います。こういう状況に関しては、各飼育員の考え方や園館による対応の差はあるので、積極的に話さない場合もあります。
しかし最近は入園者の動物に対する関心も非常に高まっていますので、しっかり発信していくべきだと思います。その上で、常同行動や不安を軽減する取り組みを行っている事を伝えていくべきだと思います。
先ほど、寝室に入る前に首を振る行動の話をしましたが、そのように一度定着してしまった行動も現在の彼らなりの感情表現の一種ではあります。寝室で早く食事をしたいという欲求が高まり、その衝動が行動に現れるならば、その点は理解するヒントになると思います。
本来は常同行動を解消するのがベストではありますが、仮に定着していたとしても、その行動が現在の個体の状態を知る手がかりにはなります。飼育をしていたら行動をネガティブに捉えるだけではなく、個体の状態の表れとしてしっかり観察して分析していくことが重要だと思います。



既存の展示方法や飼育管理を変えるのは難しいですか?
基本は難しいと思います。
例えばですが寝室に動物が入らないと残業しなくてはいけません。残業すると時間外勤務になるので「何とかしろ!!」といった理屈で主張が通るっていうことも状況によってはあります。そういう実質的な困りごとがないと動物の状態や行動を改善するみたいな事に理解が得られにくかったと思います。
飼育員にならなければよかったと思ったことはありますか?
先ほどお話しした上司との関係では、もちろん意見が合わない時は決して楽しくはありませんでした。しかし、当時は割とそれが当たり前で、上司とは本当によく衝突しました。
でも飼育動物の行動に問題が起きた時には、それを改善して結果を示す事で、だんだん自分の主張が通っていきます。例えば、閉園時間にならないと寝室に収容できない個体がいました。しかし私が取り組む事で、正午に収容出来るようになりました。そういうことを見せていくと、「結果を出している」ので実績を基に発言できるので、次第に自分の意見も通しやすくなります。その頃はJAZAが積極的に飼育員は専門性がある職業という事も発信していた時代背景もあり、だんだん自分の主義主張を出しやすくなり課題が解消されていった部分はありました。
あとは動物の生死に関することです。
やはり動物の状態が悪い時っていうのは、非常に気持ちが重くなります。でも弱っている動物に対しては、とにかくベストを尽くさなくてはならないので気持ちを振り絞って取り組みます。
亡くなってしまった時はもちろん悲しいです。
しかし改善すべき点があれば次の飼育に生かしていかなければなりません。気持ち的には必ずしも楽しい事ではないですが、これは飼育をする上では避けては通れないことです。
最近では、動物飼育は科学的でなくてはならない、栄養学が重要だという流れがあり、ここ10年ほどでそうした機運が高まってきたように感じています。海外の飼育マニュアルや論文を参考にして飼育する流れも強くなってきましたが、それ自体が悪いわけではありません。私も情報収集を行い海外のデータにも目を通していました。
それでも基礎としては動物を自分で見て判断することを大切にしていました。
しかし時代の変化の中で最新の飼育データや情報をもとに飼育する流れが強くなる中で何となくではなく、かなり明確に疎外されているのではないかと思うこともありました。当時の職場の状況や自分の心理状態もありましたが段々と気が重くなり、将来に希望が持てない気持ちが強くなった時期が正直ありました。今でも当時を思い出すと気分が重くなります。
この頃が飼育員にならなければ良かったと強く思っていたかもしれません。
そういう時に有り難かったのは、飼育に対する思いを共有できる方が他の園館にもいたことです。飼育の師匠に連絡を取るなどして情報交換する中で、自分の基本は間違っていないと確認して心の支えとしていました。この様な経験も今思うと悪いものではなく現在飼育の基本を伝えたくて情報発信をしていますが、その原動力や、きっかけになったと思います。
リスクがあっても繁殖を続けるのはなぜですか?
飼育動物によっては、もう国内の飼育個体数が少なく、繁殖計画を進めていかざるを得ない動物がいます。
私はオランウータン担当者でしたが、例えば、スマトラオランウータンは国内で10頭を切っています。そうなると、繁殖可能なオス・メスも限られてきます。限られたペアで繁殖計画を進め、同居を進めていかないと飼育個体数は減少していきます。この場合はリスクがあっても、挑戦・継続をしていかないと、国内の飼育頭数を維持できないという現状があります。


これらの取り組みは、日本動物園水族館協会が中心になって繁殖計画を組んで、対象種ごとに種別調整者がおり、全国にどのような個体がいて、どの組み合わせなら健全な繁殖が望めるかを種別調整者が計画し、該当する動物を飼育している動物園と相談して計画を遂行していきます。
実際のところ、個体を他の動物園に移動する事例が最近でもあったと思いますが、その経緯においてどうも課題が充分に解決されていない事例もありました。準備が不足している実態があるのは確かだと思います。質問でもありましたように、実際、闘争や麻酔によって命を落とすリスクを100%なくすことは非常に難しいとは思います。
私は直接JAZAの組織改革に立ち入れる立場ではありませんが、一飼育員として繁殖計画に関わった経験は過去にはあります。確か2000年初頭ぐらいに私が担当しているゴリラが別の動物園に繁殖計画に基づいて移動するということがありました。当時は移動後にゴリラが体調を崩す、場合によっては亡くなってしまう事例が続いた事がありました。そういう状況では計画自体を進められないというのは非常に問題ではありました。しかし、それに対して当時種別調整者から、こういう対策をしろと指示を受けたり話を聞いた事は個人的にはありませんでした。
計画には関わらなくてはいけない。でもリスクがあると言った時に、そのリスクをどうすれば回避できるのか?
これは自分たちで考えるしかないわけですね。
当時私が所属していた動物園にはゴリラ輸送の実績がありました。当時の飼育担当者は直接飼育ができましたので輸送檻の中に一緒に入り、ゴリラが不安にならないように努めました。実際にゴリラも調子が悪くなると下痢をしたり、体重が大きく減少します。しかし、この輸送時には体調が悪化することはありませんでした。これは実は私の飼育の師匠の実績です。
しかし私が担当した時には、180kgの成獣の雄ゴリラだったので行動管理の面から直接飼育は出来ませんでした。それでも普段からゴリラとの関係性の構築には出来る限り励んでいたので不安軽減の為に輸送に同行しました。具体的には、輸送檻の中に入ったゴリラの隣に寝転がり一緒にいました。また到着してからは2週間ほど滞在し経過を見守り現地の飼育員への引き継ぎも行いました。
当時としては、かなり詳細に様々な点を協議したと思います。
例えば一か月ごとに受け入れ先の動物園から報告を受ける事や、こちらからも職員が確認の為に出向き実際に経過を確認することもありました。この様な対応は一飼育員のみの意志だけでは実行出来ません。動物園として課題に取り組む真剣さがあったからだと思います。この事例に限らず繁殖計画に関わる各動物園が課題を明確にして全力で挑めば闘争や麻酔における事故で亡くなる可能性は下げられるのではないかと思います。
ここで改めて動物の輸送について触れますが、輸送については専門の輸送業者がありますが現在国内の輸送業者は一時期よりは減っていたと思います。主に車両に搭載して動物を運ぶ訳ですが命に関わる事なので経験豊富なベテランの方が対応しています。その作業の多くは輸送業者に任せることが多いため、動物園の職員自身は動物の輸送を経験する機会が、あまり有りません。しかし輸送業者の仕事が多くて依頼出来ない場合には、直接動物園の職員が輸送する事もあります。
しかし普段から経験している作業ではないので輸送に関してのノウハウや技術などが国内の動物園では不足している面はあると思います。輸送業者は商売として輸送業を行っていますので、情報を求めても全てを共有してもらえるとは限りません。しかし飼育動物に関わる事なので理解を深めておく事は大切です。
自らが担当する飼育動物を輸送する事を想定した場合に情報が足りない、あるいは盲点があると感じるのであれば出来る範囲で情報を集めていく必要があります。


繁殖を目指し同居を行う上で懸念される飼育動物の闘争についても少し話したいと思います。
私も大型類人猿では幾度か同居を行ってきましたが動物の反応を読み取るのは難しいものです。闘争が起きてしまうと攻撃を受けて亡くなってしまう動物は確かにいます。
ネコ科動物も担当した事がありますが彼らは捕食獣なので相手に攻撃を向けた時には状況が悪ければ重大な事故に繋がりやすい動物です。その一瞬の攻撃が相手の命を奪ってしまいますが実際にその様な事例は時々起きています。
これから話す事は私の思いつきとして聞いて下さい。
中央アジアで家畜を守る現役の大型の牧羊犬は、オオカミやヒグマなどの捕食者から家畜を守るために金属製のスパイクが付いた首輪をさせています。大変頑丈な物ですが闘争による怪我防止に、あのようなものを応用できないかと考えたことがあります。スバイクがなくても頑丈な首輪ならば頸部を保護出来るので装着して同居を行う方法も検討する価値はあると思います。
動物の命を守る具体的な方法については、私たちはもっと深く考えていく必要があります。たとえ就職前の学生であっても、ふとした思いつきから素晴らしいアイデアが生まれることもあります。動物の死亡といったニュースに触れた際、ネガティブな気持ちになるのは当然のことです。しかし、「どうすればその課題を解決できるか」まで踏み込んで考えることができれば、それは今後の動物園が発展していくための非常に重要な「知的財産」になります。
今の時点で飼育員でなかったとしても、動物に関する課題を「自分ごと」として捉え、考えてみることには大きな価値があるはずです。
飼育種を絞り、展示スペースを広げる取り組みは進んでいますか?
本来この質問は私がお答えする立場ではないかもしれませんが、日本動物園水族館協会では最近コレクションプランで、飼育動物をいくつかの区分に分類し、現状に応じた飼育管理の指針が出されています。
管理種、登録種、維持種、調査種という風に選定しています。先ほど話したゴリラは個体数が非常に少なく、しっかりした繁殖計画を進めていかないと国内での飼育維持が難しい種もありますので、管理種に該当していたと思います。



繫殖が容易なタイプの動物でも血統登録などはあるんですか?
カピバラは人気もあるので数多くの動物園で飼育されてます。あまりにも飼育頭数が多いので確か血統登録簿はなかったと思います。
このように動物種によっては飼育の現状が違いますので、このランクで分けられた上でどういう飼育管理を行っていくかは検討して対応していると思います。その点を踏まえた上で、広い放飼スペースを確保することについてですが、これは各動物園の予算規模にも左右されます。
実際最近ですと、ゾウを導入している動物園はいくつかあるかと思います。動物福祉への配慮から以前飼育していたスペースよりも桁違いに広い敷地を確保した上で複数頭導入していると思います。
この様な対応ができる動物園は、民間の動物園ならば収益を上げている、公立の動物園では、ある程度自治体の規模が大きく一定の税収があった上で大きな予算を確保できなければ、その対応は難しいと思います。公立では自治体の規模が小さいと予算を確保するのは難しいため、各園館が足並みをそろえて対応することも難しいと思います。
それは動物福祉への取り組みも同様です。民間の動物園などでは経営が難しい状況では、どうしても動物福祉を優先出来ない場合もあると思います。公立・民間を問わず、その園の認識によって取り組みに差があるのではないかと思います。
今後、飼育員の雇用はどう変化すると考えますか?


以前、国の政策で「官から民へ」が推進され、郵政民営化をはじめとする公的機関への民間参入が進みました。この流れは動物園、特に公立の園にも大きな影響を与えています。
従来の自治体の直営から、運営を民間企業や「〇〇市動物園協会」のような外部組織に委ねるケースが増えました。これが「指定管理者制度」です。この制度には、人件費の削減や民間ならではの発想による集客力アップという狙いがありました。しかし雇用の面においては非常に大きな変化が生じることとなりました。
現在、同じ動物園の中に「直営時代の職員」と「協会・民間の職員」が混在するケースがあり、それぞれ雇用形態や給与体系が異なっています。
これが、現場での「飼育技術の共有や継承」を難しくする背景となっています。例えば、せっかく若い人材を採用しても、短期契約のために早く職場を離れてしまうようでは、じっくりと技術を伝えることができません。期間の短い契約では飼育員としての基礎を培うのが難しく、単なる「その場の作業労働者」のようになってしまいがちです。その結果、動物園全体としてスタッフの質が下がってしまうという懸念があり、これを組織としてどう維持・改善していくかが大きな課題となっています。
さらに昨今は、物価高騰の影響で動物園の支出が大きく増えています。予算に占める割合が非常に大きい「人件費」をどう管理し、現状維持に必要な定員・人数をどう確保すべきか、改めて考え直す局面にあります。
また、今後は飼育動物の高齢化に伴い飼育頭数や展示種の減少が進むと予想されます。展示や飼育の業務自体が減れば当然必要な人員も少なくなります。こうした時代の変化を踏まえると、今後の飼育員の雇用や採用の定員は見直さざるを得ないのではないかと考えます。
飼育員を目指す学生が、今から取り組むべきことは?


私自身、今毎日飼育や動物園に関して投稿するようにしています。そのため日常的に文章を書いています。
最近の動物園の就職試験では履歴書などで志望理由や具体的な考えを書かせる場合があります。
400字や800字、多い場合は1000字ほど、さらに、同程度の字数の設問が複数ある場合もあります。そうなってくると文章力が必要です。だから普段から日誌で記録をつけるとか一日の自分の行動記録を書き留める、些細なことでも文章で表現することを意識して記録する訓練は重要だと思います。
もちろん普段は勉学に励まれてお忙しいとは思うんですが、実際に自分の意志とか、やる気を相手に伝わるように書き表す努力は大事かと思います。
就職にも直接生きてきますし、文章力っていうのはいろんなところで使えますので、書く習慣は身に付けておいた方がいいと思います。
飼育員を目指す上で、取得しておくとよい資格は?
実は私は資格をあまり持っていません。一般的な普通自動車免許は作業時に車両の運転は行うので必要です。愛玩動物飼養管理士は就職後に取得しました。動物園に入った当時は簿記や危険物の資格は取得していましたが直接動物園の業務には役立たなかったと思います。
むしろ今大学や専門学校で勉強されてる皆さんの方が必要な資格については学校の進路課の先生に聞けば指導してくれるのではないでしょうか。
また私は取得していませんがフォークリフトの様な重機の資格は役立つかもしれません。実際に免許を取得している同僚がいましたが展示場の整備など大きな作業などもやっていただけるので助かりました。事前に取得できるのであれば、持っておくと便利かもしれません。
世界一・日本一だと思う動物園はありますか?


私はあまり、数字や規模で「世界一」「日本一」という見方をしていません。国内外の動物園をいくつか巡る中で、何よりも重視しているのは「飼育員がどれだけその動物に手をかけているか」だからです。そのため、特定の動物園の名前を挙げるのは少し難しいのが本音です。
ただ、数多くの動物たちを見ていると、時折何か違うなと感じる個体に出会うことがあります。
人工的な環境を整えるだけでは、動物の状態は決して良くなりません。だからこそ飼育員がいて、日々一生懸命に飼育管理を行うわけですが、その中でも明らかに状態が良く、言葉を失うほど美しい動物が時々いるのです。
限られた空間の中で、どれだけ良い状態に育てられるかにこだわりを持つ飼育員の手がけた動物を見ると私は惹きつけられます。
「適量適質」という言葉の通り、本当に状態の良い動物には無駄がありません。
それは先ほどお話しした栄養学にも通じます。その動物にとって本当に必要な栄養素、必要な内容の食事を与えられている動物は、人工的な環境であっても驚くほど素晴らしい状態を保っています。そうした姿を見た瞬間に裏で飼育員が相当な努力をしているなと深く感銘を受けるのです。
若い頃は、そうした素晴らしい展示を見つけると、動物園そのものというより、その飼育員に会うために、休みのたびに毎週のように通い詰めた園もありました。
日本の動物園を基準に見てきた私ですが、今から20年ほど前にアメリカの動物園を訪れた際、その施設の規模とあり方に大きな衝撃を受けました。そこには、複数の個体がまるで本物の森の中で暮らしているかのような景観が、見事に再現されていたのです。海外の動物園がどれほど進んでいるかを、肌で実感した瞬間でした。
かつての日本の動物園では、飼育員が直接子どものゴリラを世話するような、人間が深く関わる育て方が主流でした。しかし、多くの個体を同居させて「群れ」で飼育することはほとんどありませんでした。そのため、仲間同士で関係性を構築するという、ゴリラ本来の「社会経験」を積まないまま大人になってしまった個体が多くいたのです。結果として、欧米の動物園に比べ、繁殖実績の面でも大きな遅れをとることになってしまいました。
一方、海外の動物園では、すでに若いゴリラたちが群れの中で社会経験を積みながら育っていました。その光景を見たときは、非常に感動しました。


ゴリラは興奮するとドラミングをするなど、一見すると荒々しいリアクションをしますが、社会経験を身につけている個体は、見知らぬ人間が近づいてきても、立ち振る舞いに圧倒的な「余裕」があるのです。「社会で育った動物は、これほどまでに違うのか」と痛感させられました。それと同時に、「自分が担当しているゴリラも、こういう風に育てなければいけない。少なくとも、あらゆる環境の変化に対して、柔軟に対応できる強さを身につけさせてあげたい」と、強く心に誓いました。
飼育員の仕事や管理体制によって、動物の状態や「質」には明らかな違いが出ます。だからこそ、本当に素晴らしいものに出会ったとき、私のアンテナは今でも高くなります。
飼育員として、最も大きな失敗や反省は?
どうしても同じ動物園で同じ個体を飼育していると、その動物との関係性が構築されて、「自分はこの動物を扱えている」と錯覚してしまうことがあります。私はいろんな動物園に移籍していますが、別の動物園で働くと状況はまったく違いました。
同じ種類でも、関係性の浅い動物と向き合うと、あらためて、その動物に対する自分の理解が浅かったことに気づかされます。そんな時は自分自身が愚かだったと思いました。そこで気づきを得て、新しい動物にどう関わるべきかを考え、自分自身を再構築する機会になりました。まったく飼育環境が違うところで動物を扱ってみるのは、私にとって良い経験だったと思います。
特に大型類人猿の話はよく投稿することがありますが、その中で説得力が出てくるのは、異なる環境の個体も担当し、実際にうまくいかなかった状況もあったからだと思います。
10年後、動物園業界はどうなっていてほしいですか?





ウナムゲンさんのこれまでの経験を踏まえて、10年後の動物園業界はどうなっていてほしいですか?
私は10年後の動物園業界がAIを駆使して高度な飼育技術を次世代に継承する場になっていてほしいと考えています。
最近では、一部の動物園でもAIを活用した個体識別や異常行動の検知などが始まっています。私はこのAI技術を、さらに一歩進めて飼育技術の継承に活用できないかと考えています。
例えば、ベテラン飼育員が観察時にどの様な着眼点を持っているのかをAIに学習させて、そのシステムを用いて若手の育成に役立てるアプローチです。歴代の飼育員が培ってきた経験や技術をデータとして蓄積すれば、AIを介して様々な状況を想定した実践的なシミュレーション教育が可能になります。これにより、より繊細な飼育技術を国内の動物園にしっかりと残していくことができるはずです。
日本には、一つの専門技術を極める「職人文化」があり、動物園の飼育の現場にもそうした非常に高い専門性が存在します。デジタル技術が進化する今だからこそ、AIを用いてこの技術を若い世代へ確実に繋いでいける仕組みを作れたら良いと思います。
将来、日本独自の繊細な飼育技術が国内で確立されたとき、海外から日本人はこれほど深い視点で動物を観察し、ケアしているのかと驚かれて評価される未来が来ればこれほど嬉しいことはありません。現在の動物園業界はデジタル化などの面で遅れている部分もあるかもしれませんが、テクノロジーを正しく味方にできれば今よりもさらに完成度の高い世界に誇れる動物園が生まれると期待しています。









