園長に聞く!「天王寺動物園から始まる、マレーシアゾウの物語」

はじめに

令和8年3月11日、大阪の天王寺動物園に3頭のアジアゾウが来園しました。平成30年1月25日に「ラニー博子」が死亡して以来、8年ぶりにゾウの飼育が再開されます。

今回、向井猛園長に直接インタビューすることができましたのでその様子をお伝えできればと思います!どうぞ最後までご覧ください!

Q1. マレーシアゾウ来園に関して苦労した事、大変だった事

今回、天王寺動物園にマレーシアゾウが来園したという事ですが、来園に関して苦労した事、大変だった事などはありますか?

1 番苦労した事といえば、今回の導入までにかなりの時間を要した事です。

マレーシアのタイピン動物園と姉妹動物園協定及びマレーシアゾウ保護プログラムに関する協定を締結したのが2022年の5月と10月のことでした。いずれもZoo to Zoo、つまり動物園間での協定でした。しかしその後マレーシア政府と交渉を重ねる中で様々な経緯があり、ようやくZoo to Zoo契約が認められ、やっと3頭のゾウを導入できたのが今年の3月になったという訳です。

他にも、現在使用されている新ゾウ舎「エレファントヴィレッジ」を建設するにあたり、関係職員と設計・施工会社が何度も建設会議を重ね、ようやく既存獣舎の改修と新獣舎の建築を完成させることが出来ました。

Q2.ゾウの種名表記の理由

導入されたゾウの種名表記が通常の「アジアゾウ」ではなく「マレーシアゾウ」表記となっているのは何か理由があるのですか?

今回タイピン動物園と結んだ協定の題名は「Malaysian Elephant Conservation Program」、つまりマレーシアのゾウの保全プログラムという表記でした。マレーシア半島の貴重なゾウであるため、敬意を込めて「マレーシアゾウ」と表記しています。

Q3.「マレーシアゾウ」表記の影響

マレーシアゾウと表記することによって、他園との個体交換・ブリーディングローンなどには影響は出ないのですか?

今回の契約は、あくまでもマレーシアの動物園とのブリーディングローン契約です。マレーシアのゾウを保全するというプログラムなので、国内の他園との個体交換・ブリーディングローンなどは考えていません

今回来園した3頭について
  • クラッ(KERAT)・オス、推定20歳の保護個体、キバの大きな個体
  • ダラ(DARA)・メス、推定14歳の保護個体、少しだけキバが見え、体高がクラッに匹敵する
  • アモイ(AMOI)・メス、推定10歳の保護個体、最も小柄な個体
    (年齢は2026年時点のもの)

Q4.マレーシアゾウに関して、来園者に知って欲しい事などはありますか?

マレーシア国内では、象牙のためのゾウの密猟、プランテーション農園での人との軋轢などもあり、孤児になるゾウが後を絶ちません。ここにいる3頭もそうです。マレーシア政府が立てた計画「National Elephant Conservation Action Plan (NECAP2.0)」というものも知っていただき、マレーシアのゾウ達がおかれている現状を知って頂いて、少しでも生息地の環境や生物多様性保全について理解をして頂ければ嬉しいです。

Q5.ゾウを飼育する上で大切にしている事はありますか?

皆さんご存知の通り、ゾウは大変大きな動物です。力も強く、接する場合には危険が伴います。しかしながら、とても知的で繊細な感情の持ち主でもあります。ゾウが今何を考え、どのような行動をしたいのかを読み取り、できる限りゾウの幸せを思い、ゾウも人も安全に暮らせるよう飼育管理をしています。

ですので、これまでの直接飼育から切り替え、現在は準間接飼育(プロテクテッド・コンタクト)という手法を取り入れ、体重測定・蹄の管理・体温測定・耳からの採血などのトレーニングを重ねています。

準間接飼育とは

準間接飼育とは、飼育員が動物のいる空間に入らずに檻や柵越しに動物と接触するトレーニングや給餌を行う飼育法のこと。

直接飼育のように動物と同じ空間に入る必要がないため、飼育員の安全性を高めつつ、ハズバンダリートレーニングを用いた動物の健康管理や行動観察、繁殖に伴う活動など様々な飼育管理業務が可能

Q6.天王寺動物園の今一番の課題は?

人手不足や予算、施設の老朽化など、動物園には様々な課題があると思います。天王寺動物園が抱える、今一番の課題はなんですか?

動物が居なくなる事、ですね…。

現代では希少動物の導入も非常に難しくなっていますし、当園の動物達も高齢化が進んでいます。今後は、如何に飼育する動物を確保するかが一番の課題です。

コレクションプラン(飼育する動物の種類の記録・予定)の更新や、他園とのブリーディングローン(繁殖のために動物の交換や貸し借りをすること)関係の推進、生息域外保全への取組みが重要課題だと思います。生息域内保全への取組みも世界に認められる動物園になる為には、必要なことです。

Q7.園⾧さんの中で、これまでで一番印象に残っている動物の種類・個体はいますか?

一番印象に残っているのはユキヒョウですね。

私は円山動物園で勤務していたのですが、ユキヒョウの飼育や繫殖にも携わりました。個体としては、当時飼育されていたフブキとコユキという2頭が印象に残っています。他にもペルシャヒョウの繫殖に携わっていた事があります。

あとは花子とリリーという二頭のゾウもいますね。

Q8.学生へのメッセージ

多くの学生が動物園で働く事を夢見ています。そんな動物園業界を目指す彼らにメッセージはありますか?

英語は話せておいた方が良い、という事ですね。

動物園にも海外から多くの来園客が来ますし、海外の園などと交流する時も日本語だけでは厳しいです。それとコミュニケーション能力ですかね…。上下関係はもちろんの事、横の関係も大事にしていければ。

動物園の仕事はチームで行う仕事です。協調性やコミュニケーション能力はとても大事です。

Q9.「この動物園、10年後どうなっていてほしいですか?」

理想論ではなく、現場の人が本気で願っている未来を教えて下さい。

天王寺動物園は、令和3年4月より地方独立行政法人として再スタートいたしました。
大阪市の直営だった頃にはサバンナゾーンの新設以降リニューアルが止まってしまっていましたが、直近でいうとエレファントヴィレッジポーラーベアコーストなどの新施設が誕生しました。ここから更に予算がついて、JAZAの適正ガイドラインに沿ったリニューアルが進んでいって欲しいと思っています。他にも病院の新設や、生息域外保全は勿論のこと、生息域内保全への貢献も積極的に取組み、様々な研究等にも力を入れていきたいです。そこで世界基準に追いつく事ができればと思います。中期目標にある「国際社会に貢献し、世界に誇れる動物園」を目指していきたいと考えています。

まとめ

今回取材をさせて頂き、ゾウ導入の意義や目標、マレーシアが抱える問題について深く理解する事ができました。ゾウを保全・保護するというだけでなく、「マレーシアのゾウを守る」とする事によって、マレーシアに生息する貴重なゾウの保全に繋がるのだと分かりました。この3頭のゾウを通じて、来園者がゾウの生態や導入の背景、現地で起こっている問題について理解する機会になれば良いなと思います。

担当:NYT(ZooPortal取材班)、代編:Ryusei(ZooPortal編集長)

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