こんにちは。二枚貝ホタテと申します。
動物っていいですよね。かわいくて、美しくて、かっこいい動物たちは素晴らしい存在です。が、植物も同じくらい魅力的だと思っています。鮮やかに咲き誇る花。美味しくて栄養満点の野菜や果物。季節の風情を感じさせる紅葉やススキ。心をリフレッシュさせてくれる緑の森。のんびりピクニックしたくなる芝生。ふわふわモコモコで癒されるコケ。素敵な植物がたくさんいますが、今回紹介したいのがシダです。シダは残念ながら地味で目立たない存在だと思われがちです。シダは世界に11000~12000種ほどいるとされ、これは鳥の種数に匹敵する数です。では、あなたは鳥を何種類知っていますか?動物に詳しくない人でも、多分5種類くらいは言えるでしょう。では、シダを何種類知ってますか?鳥と同じくらいの数、言えますか?・・・きっとほとんどの人は、鳥の半分も言えないことでしょう。
なかなか注目を浴びることのないかわいそうなシダ。ですが、まるで数学者が緻密に計算してデザインしたかのような繊細な葉の造形や、一般人が持つシダのイメージを覆す多様な姿は、どんな動物にも負けず劣らず面白い存在です。ZooPortalは動物を扱うサイトですから、(今はまだ)シダに興味がない読者の方も大勢いるかと思います。まずは筆者が動物園や水族館、博物館で撮影した、動物×シダの写真をいくつかご覧ください。
・・・と、その前に。大変申し訳ないのですが、筆者はシダが好きですが、全然詳しくないので、画像に映っている植物をシダだと思い込んでいるけど本当はシダじゃない可能性もあります。その他、記事の内容や種の同定が間違っていた場合は筆者のSNS(@P_yessoensis)まで情報をお寄せください。シダガチ勢の皆様のご協力をお願いします。
動物×シダ 写真展







筑波実験植物園(水草展)














というかそもそもシダって何?
動物とシダの写真はいかがだったでしょうか?もしかしたら、「この画像にシダが映っているの?これがシダなの?」という写真があったかもしれません。
シダは地球上に1万種類以上いるわけですから、その姿はとても多様です。
普通のシダらしいシダもあれば…

人の背丈を超え、見上げるほど大きな木のシダもあったり…

四葉のクローバーみたいなシダもあれば・・・

水に浮いている丸っこいシダもあります。

どうやらシダっぽい見た目のシダばかりではないようです。では、どうしてシダだといえるのでしょう?シダとは何なのかを考えてみましょう。
陸上植物を体の構造と繁殖方法によってざっくりとグループ分けしてみます。まずはコケと維管束植物の2つに分けましょう。コケは茎や葉の区別がないシンプルな構造の陸上植物です。また、種子を作らず、小さな胞子を作って増えます。一方、体のパーツが葉・茎・根と分かれて役割分担があるのが維管束植物の特徴です。維管束は水や栄養を運ぶ管が束になったものとお考えください。維管束植物は繁殖方法によってさらに2つに分かれます。今回の主役であるシダはコケと似た小さな胞子で増えます。もう一つは種子植物で、胞子ではなく種子を作って増えます。種子を作るための繁殖器官、すなわち花があるのも種子植物の特徴ですね。種子は胞子と比べて大きく頑丈、乾燥に強いという強みがありますが、小さい胞子みたいにたくさん作れないし、重くて遠くに運ばれにくいという弱点があります。遠くまで拡散しにくいということは、そのまますぐ下の地面に落下しやすいということ。すると親のすぐ下に子が生えてしまい、親子同士で光や栄養の奪い合いになります。その解決策の一つが美味しい果実を作ること。種子の入った果実を動物に食べてもらい、移動した先で種子を排泄してもらうことで遠くまで旅するのです。
花を咲かせて種子を作る種子植物に対し、シダはどうやって胞子をつくるのでしょう?シダの葉をめくって裏を見ると、粒粒としたものがついています。これは胞子嚢群、またはソーラスと呼ばれる器官で、胞子嚢という器官の集まり。胞子嚢で胞子を作って放出するわけです。ただ、胞子嚢群がいっぱい並んでいる様子は集合体恐怖症の方にとっては苦手な可能性があります。
コケ、シダ、種子植物。3つのうち、花を咲かせて果実を実らせるのは種子植物だけです。つまり、花、野菜、果物といった形で人の生活に身近な植物はほとんど種子植物です。が、シダにはシダの魅力があるのです。
シダとは「根・茎・葉といったパーツの役割分担があって、胞子で増える植物」という話でした。この条件に当てはまり、シダと呼ばれている植物は1つのグループではありません。シダ綱(大葉類・シダ類)とヒカゲノカズラ綱(小葉類)の2つのグループで構成されています。次の画像はシダの系統樹です。オレンジと黄色のエリアがシダ綱、水色がヒカゲノカズラ綱です。

国立科学博物館筑波実験植物園で開催された「シダ・ミュージアム ―つくばシダ展―2023」で撮影した上の画像によると、シダ綱は48科319属10578種、ヒカゲノカズラ綱は3科18属1138種、合わせて11916種とのことです。もっとも、シダの分類はかなり複雑で難しく、現在も研究者たちによって整理されている真っ最中ですので、これが結論ということはありません。
2つの綱のうち、現在のシダのメインストリームはシダ綱です。山菜のワラビ、ゼンマイ、コゴミ、それからツクシの正体であるスギナもシダ綱です。もう一つのヒカゲノカズラ綱にはヒカゲノカズラ、ミズニラ、イワヒバの仲間がいます。シダ綱と比べるとちょっとマイナーですね。日本神話の有名なエピソードに、太陽の女神である天照大御神が天岩戸に隠れ世界が真っ暗になった時、天宇受売命が舞踊で引き出したという話があります。この舞踊の時に天宇受売命がまとっていたたすきがヒカゲノカズラだった、という説があるそうです。またヒカゲノカズラはキンギョやメダカを繁殖させる時の産卵床としても重宝されています。
シダ綱とヒカゲノカズラ綱が分岐した年代はかなり古く、シダ綱と種子植物が分岐したのはその後です。生物学の専門用語で言うと、シダというグループは側系統群となります。シダの一部から種子を作る植物が進化してきたとも言えますね。
地球の歴史と古代のシダ
突然ですが、ここで、3億年ほど前の地球にタイムスリップしてみましょう。トンボのような姿で、翅の端から端まで70cmくらいある巨大昆虫メガネウラ。2m以上あったとされるヤスデの仲間アースロプレウラ。こうした虫たちが生きていたのが石炭紀という時代です。種子植物は一つ前の時代であるデボン紀に誕生したばかりの新参者ですから、木もあったとはいえ今ほど繁栄していません。代わりに高さ数十メートルの巨大なシダ、つまりシダの木が森を形成していました。代表的なのがレピドデンドロン、シギラリア、カラミテスの3つです。石炭紀シダ界におけるサンダー・ファイヤー・フリーザーみたいなもんです。レピドデンドロンは鱗のような凹凸があります。レピドは鱗、デンドロンは木という意味で、鱗木と書いてリンボクともいいます。シギラリアは印のような凹凸を持ち、封印木と書いてフウインボクとも呼ばれます。そしてカラミテスは水辺に生えるアシのような見た目から、蘆木と書いてロボクという和名があります。



このうちカラミテス(蘆木)はシダ綱で、ツクシことスギナに近い仲間です。そしてレピドデンドロン(鱗木)とシギラリア(封印木)はヒカゲノカズラ綱のシダなのです。ヒカゲノカズラ綱も3億年くらい前にはシダ綱と張り合うくらい大繁栄だったということですね。ちなみにこの石炭紀という時代ですが、この時代の地層から石炭がよくとれたことから名付けられました。そもそも地層の研究は石炭が埋まっている場所を見つけて採掘するために推し進められたので、石炭がいっぱい埋まっている地層の時代に石炭紀と名前がつけられたわけですね。そんな石炭の正体は木の化石です。石炭紀の木といえばシダがメイン。つまり石炭は古代に生きていた大きなシダの化石であり、巨大シダが生きていた証とも言えます。
石炭紀の間、大陸が移動して1つに集まりました。石炭紀の終わりごろに大陸たちが合体して超大陸パンゲアになると、海から離れた内陸部が多くなります。つまり乾燥した場所が多くなったわけです。シダは乾燥に弱いため、巨大な木のシダは衰退していきました。それでもシダは生き残りました。それからなんやかんやあって2億年くらいの時が流れ、今から約6600万年前のこと。直径およそ10km、山手線の線路が描く丸くらいの大きさの天体が飛来しました。現在のメキシコのあたりに衝突し、熱風、津波、そして地球規模の大気汚染による太陽光の遮断に伴う寒冷化「衝突の冬」が起きました。ティラノサウルスやトリケラトプスを筆頭に無数の命を奪い、多くの生物を滅ぼしました。この大災害からいち早く復活したのがシダでした。隕石衝突後に世界各地からシダの胞子の化石が多く見つかっています。このシダが爆増した現象をファーン・スパイクといいます。命が消え荒廃した大地で、真っ先に芽吹いたのがシダだったのです。突然の隕石衝突によって失われた地上の豊かな自然。その復活の第一歩を、シダが務めたのかもしれません。
シダへの感謝で心がいっぱいになったところで、前編はここまで。後編では、動物園や水族館で会える面白いシダと、危機にある珍しいシダをご紹介します。
参考文献
桶川修『くらべてわかるシダ』山と渓谷社、2020
土屋健『カラー図解 古生物たちのふしぎな世界 繁栄と絶滅の古生代3億年史』講談社、2017
矢部淳他『特別展「大絶滅展-生命誌のビッグファイブ」図録』NHK、2025
岩戸別神社 おしらせ https://iwatowake.com/archives/755/

