こんにちファーン(シダの英語)。二枚貝ホタテです。
前回に引き続き、好きではあるけど全然詳しくないシダの話をしますので、どうか温かい目でお読みください。
前編ではシダとは何か、そして古代のシダを紹介しました。後編では具体的にどんなシダがいるのかを見ていただきましょう。
オススメ面白シダ植物
動物園や水族館、植物園や街中には魅力的なシダがいっぱい!どんなシダがいるか見ていきましょう。イメージ通りのシダらしいシダから、変わり者のシダまで、筆者オススメのシダをご覧ください!
繊細な造形 リョウメンシダ
筆者の推しシダです。表も裏も同じような色をしていて、“両面”とも同じなのでリョウメンシダ。

シダらしいシダですね。この形、まるで鳥の羽毛みたいだと思いませんか?中央の軸(葉軸)から両側に羽片という部位が伸びていきます。これはシダによく見られる形態で、羽状複葉といいます。リョウメンシダは羽片がさらにその先で枝分かれし、小羽片がついています。緻密で繊細、数学のフラクタル構造の図形を彷彿とさせますね。
これから登場しますが、羽状複葉ではないシダもたくさんいます。逆に種子植物の中にも羽状複葉の草や木があります。有名なのは触ると葉っぱが動き出し、お辞儀をするように閉じるオジギソウ。これはシダではなく種子植物で、マメ目マメ科です。マメ科以外にもヤシやソテツの仲間の葉はシダと似ていますね。
閑話休題。リョウメンシダの話に戻ります。ぜひとも行ってほしいリョウメンシダの群生地があります。その名も「しだの谷」。場所は横浜市立金沢動物園のすぐそばです。金沢動物園はお土産を販売しているショップとレストランが動物園の外にあります。動物園を出て左に曲がって少し坂道を上るとショップ・レストランがあるのですが、お店に入る手前でさらに左折!そこにしだの谷への入り口があるのです。もっとも、金沢動物園自体が山の中にあるため園内にもたくさんのシダが生えています。

は!か!た!のしだ! ハカタシダ
同じく筆者の推しシダです。色に個体差があり、葉の中心近くがライムグリーン、外側はモスグリーンの色という斑入りの個体が筆者のお気に入りです。かわいいですね。この模様が福岡の伝統的な絹織物「博多織」の帯に似ていることが名前の由来といわれています。

水中の「推し」だ ボルビティス
水族館の熱帯魚水槽。色鮮やかな魚たちもきれいですが、背景を彩る水草だって魅力的です。光合成によって生み出される酸素が、水中だからこそ気泡になってキラキラ輝き、魚にも負けない美しさを演出します。そんな水草の中にもシダが紛れていることがあるのです。

ボルビティス・ヒュディロティは熱帯魚のお店で売られていることもある、アフリカの水草です。光が弱めでもよく育つ、陰日性の水草ですね。

実はこのボルビティス、先程紹介したリョウメンシダ・ハカタシダと同じオシダ科に分類されることがあります(説によっては別の科に分類されることもあります)。同じオシダ科とは思えない多様性です。
木の上、そして水の中 ミクロソリウム
水草のシダはボルビティスだけではありません。田中法生『異端の植物「水草」を科学する : 水草はなぜ水中を生きるのか?』という本では、シダ植物の水草を5科159種と紹介しています。

例えばミクロソリウムという名前で流通する水草。ボルビティスよりメジャーな水草で、熱帯魚のお店でよく見かけます。ヌカボシクリハラン属というグループで、本当はMicrosorumというスペルなんですが、なぜかミクロソリウムと呼ばれています。

水草の話から離れますが、このジュウジメドクアマガエル、なんだか変わった葉っぱに乗っていますね。

ワニの鱗のような模様を持つエキゾチックな葉が特徴的です。確証はないですが、これはクロコダイルファーンだと思います。クロコダイルファーンはウラボシ科のシダ。ウラボシ科といえば、地面に根を下ろすのではなく、木の上の方に生える、つまり着生植物のシダがたくさんいるグループです。具体的には観葉植物として人気のビカクシダ、街路樹からピロピロと生えているノキシノブ、そしてクロコダイルファーンもウラボシ科の着生植物です。そんなクロコダイルファーンの学名はMicrosorum musifolium ‘Crocodyllus’です。おや?Microsorumという名前、聞いたことありますね。そう、水中に生えるミクロソリウムと木の上に生えるクロコダイルファーンは、同じウラボシ科ヌカボシクリハラン属に入る近縁種なのです。木の上に生えるシダばかりのウラボシ科。そんなグループに、どうして水中に生える種類がいるのでしょうか?不思議ですね。
無限に成長し続ける? カニクサ
カニクサは他の植物に絡みつくつる植物です。

一見するとつるの先に小さい葉が付いているように見えます。このつるの部分は茎でしょうか?いえいえ、この長いつるも含めて1つの大きな葉です。カニクサは植物界屈指の長~い葉を持つシダなのです。葉の先端は無限生長するともいわれています。つるの先にたくさんある「小さい葉っぱ」は、厳密には葉の一部ということになるわけです。小さい葉っぱ、もとい小羽片はついている場所によって形が全然違います。胞子を作る小羽片とそうでない小羽片があって、それぞれ違う形をしているのです。つまり、1枚の超長い葉っぱに、形も機能も違う2種類の「小さい葉っぱ」がたくさんついているということです。なんとも不思議な植物ですね。変わった植物カニクサですが、決して珍しい植物ではありません。筆者が通勤の乗り換えで利用する駅にも生えています。東京都心にある筆者の勤務先から徒歩数分のところにある郵便局前の植え込みにも生えています。あまり好きな表現ではありませんが、いわゆる雑草です。しかもつる植物なので、他の植物に絡みつきます。街中で見かけた!と思ったら、次の日に見ると除去されてた、なんていうシダ好きにとって悲しいことも・・・。駆除されてしまう前にぜひ探してみてください。そして不思議な形を堪能してみてほしいです。

前編でお見せしたこちらのキンムネオナガテリムクの画像をもう一度ご覧ください。どこにシダがあるか分かりますか?鳥の下にもシダが生えてますけど、もう一つ注目してほしいポイントがあるのです!ピントはあっていませんが、鳥の上にも変わった形の葉があります。実はカニクサがいたんですね。
他にも横浜市立野毛山動物園のフサオマキザルの檻の前に生えているのを見たことがあります。つる植物なので檻に絡んだらサルが見えなくなってしまいます。きっと伸びてきたら除去されてしまうのでしょう。動物を見せるためなので仕方ありません。動物園の檻の前でカニクサを発見したら、その儚い存在に思いを傾けてほしいです。
きらめく美 セラギネラ
ヒカゲノカズラ綱のシダもご紹介しましょう。前編の動物×シダ写真展で、マクセルアクアパーク品川のシナワニトカゲ(チュウゴクワニトカゲ)の画像を出しました。草を枕にして気持ちよさそうですね。

トカゲの下に生えているのは、ヒカゲノカズラ綱イワヒバ目イワヒバ科セラギネラ属の植物だと思われます。セラギネラの仲間は光の当たり方や見る角度によって色が変わる美しさが人気のシダ。構造色できらめくシダなのです。代表的なのがコンテリクラマゴケという種で、一鉢500〜2000円くらいで購入できます。中国原産で、日本の気候でも育てやすい丈夫な植物です。その一方で、園芸用として育てられていたのが野生化してしまっている逸出帰化植物、いわゆるエスケープ雑草でもあります。

余談ですが、クラマゴケはコケと名前についていますがシダの仲間。そしてクラマゴケモドキというよく似た植物もいるのですが、こちらはコケです。なんでモドキの方が本物のコケなんだよ。
この記事を執筆している最中の10月4日、セラギネラと動物の関係性に迫る論文が発表されました。タイトルは「Mimicry of mantis and Selaginella from Cretaceous provides new evidence for the deep-time co-evolution of insects and plants」。白亜紀に生きていた古代のカマキリがセラギネラの仲間にそっくりだというものです。現代では様々な昆虫が擬態をします。また古代の琥珀の中に昆虫が閉じ込められていることがあるのも有名です。が、擬態をする昆虫が入った琥珀が発見されたというのは珍しく、昆虫の擬態という進化の謎に一石を投じるかもしれません。
動物好きに知ってほしい!シカとシダの関係
シダの多様性、美しさ、繊細さ、かわいらしさ、歴史の重み。こうした魅力はなかなか伝わりにくいかもしれません。文字だけで伝わるようなものではないし、自分の写真もシダの美しさを記録できている自信はありません。記事をここまで読んでみて、正直、シダに興味が湧かなかったなぁという読者もきっといることでしょう。でも、動物が好きな皆様に知ってほしいことがあります。動物とシダが無関係ではないという話。
現在日本ではシカの増加が問題となっています。ZooPortalの記事でも、駆除されたシカの肉をライオンに与える屠体給餌の話がありました。

シカが増えたことで、植物を食べつくして生態系を破壊するといった被害が深刻化しています。増えすぎたシカを駆除し、その肉をライオンに与えるという取り組みです。
シカによって食い荒らされ、絶滅の危機にある植物がいます。シダも被害者です。
下の画像は、国立科学博物館筑波実験植物園で開催された「シダ・ミュージアム ―つくばシダ展―2023」で撮影したものです。

左から、キリシマイワヘゴ、ヒュウガシケシダ、コバヤシカナワラビという3種が展示されています。・・・えぇ、見た目はどれも一緒に見えますよね。全部同じじゃないですかーっという声が聞こえてきそうです。でも、3種とも超レアで超絶ピンチなシダなんです。上の写真では解説文が読みにくいと思いますので、文字に起こしてみました。
キリシマイワヘゴ CR
<国内希少野生動植物>宮崎県霧島山麓の群生地はシカの食害で一旦絶滅状態になった後、6個体が再発見された。徳島県の1か所でも3個体がかろうじて生育している。当園ではリスク分散のため両県から1株ずつ受け入れて域外保全しており、胞子からの増殖を進めている。
ヒュウガシケシダ CR
<国内希少野生動植物>日本産シケシダ属では数少ない直立する根茎を持つ種。元々自生地は僅かであったが、現在ではシカの食害の影響で防鹿柵の中のみに生き残っている。
コバヤシカナワラビ EW
1976年に採集された標本をもとに、ハガクレカナワラビの変種として2009年に記載されたが、記載時点ではシカ食害等の影響で自生が確認できない状況になっていた。
3種ともシカ食害の影響を受けていることが記されています。名前の隣に書かれているCRとEWですが、これは環境省の定めるレッドリストでのランクです。CRは絶滅危惧種のランクの中で最も深刻なものです。そしてEWは野生絶滅、すなわち自然界からは消滅していて人間の飼育・栽培している個体しか生き残っていないという状況を意味します。つまりCRとEWはトップクラスの大ピンチということです。無論、この3種だけではありません。同じく環境省レッドリストでCRに指定されているフクレギシダ、特定第一種国内希少野生動植物種のヤシャイノデなど、シカによって窮地に追いやられてるシダがいます。野生に数個体しか生えていないシダや、それどころかもう野生に生えていないシダがいるということをどうか知っていただきたいのです。
筆者は子供の頃から動物が好きでしたが、植物に対しては大人になるまで興味がありませんでした。しかし動物と植物は無関係ではいられません。多くの動物の食べ物として、また隠れ家や巣材といった形で、さらには光合成による酸素の供給など自然界そのものの基盤として、動物の命を支えています。ここでいう動物にはヒトも入ります。シカが増えて植物が食い荒らされると、あらゆる野生動物、さらには人間社会にも悪影響が及びます。たとえば山の植物が減ると土砂を支えていた根がなくなり、土砂崩れが発生しやすくなります。これにより河川や沿岸域が汚れることで漁業にも被害が出ています。野生動物も植物も人間の生活も全てつながっているということを、動物が好きで勉強している方であればきっと知識として頭に入っていることでしょう。植物への興味と知識が増えれば、このつながりがもっとくっきりと見えてくるはずです。これを読んでいる動物好きの皆様、どうか、植物のことも気にかけてはもらえないでしょうか。
シカとシダの話をしたついでに、絶滅危惧種とは真逆のシダも紹介します。名前はイノモトソウ。街中のアスファルトの隙間にも生えている、いわゆる普通種のシダです。

イノモトソウの仲間であるオオバノイノモトソウはシカに嫌われていてあまり食べられない「シカ不嗜好性植物」とされています。シカは有毒のトリカブトやベニテングタケですら食べるというのに。シカが飼われている動物園に行ったら、放飼場の中や柵のそば、シカの口が届く範囲にどんな植物が生えているかを観察してみるのも面白いでしょう。もしかしたら、シカ不嗜好性植物が悠々と生えているかもしれません。こんな風に、動物園や水族館で植物を観察したり、動物との関係性を見つめなおしてみるのも(上級者向けですが)楽しいと思います。
植物好きへの第一歩?
動物園・水族館には魅力的な動物たちがたくさん暮らしています。でもそこにはきっと植物もいるはずです。放飼場の土の上に。檻の前に。水槽の中に。通路の脇に。時には動物のエサとして。自然界の景観を再現するために意図的に植えられていることもあるでしょう。植えていないのにたまたま生えてくることもあるでしょう。そんなふうに、世界中にあふれる植物たちに興味を持たないなんて、もったいないと思いませんか?植物に関心がなく、ただ風景の一部と捉え、視野に入っていても見ていなかった方もきっといると思います。数年前の自分がそうでした。そんな方にも植物の魅力が届けばいいなと思います。動物も植物も面白いと感じるようになれば、世界はもっと楽しくなります。筆者はコロナ禍で外出が制限された時にYouTubeで生物についての配信や動画を多くみるようになり、それを機に植物にも興味が湧いてきました。まだまだ筆者も勉強中の身であり、お世辞にも詳しいと言えるレベルではありませんが、ここではシダを楽しむための3ステップを紹介しましょう。
STEP1 勉強はおいといて、まずは純粋な気持ちで鑑賞する
シダに興味がない人が、シダについて書かれた専門的な文章を読んでも意味不明で退屈だと思います。それよりまずは外に出て、シダをその目で鑑賞して、美しさやかわいらしさを実感するのがいいでしょう。勉強すればより一層楽しめますが、勉強しなければ楽しめないということはありません。街中や動物園に生えるシダを観察して、美しい姿を観賞する。そのシダが何という種類なのか、何目何科に属するのか、体の細かいパーツの名前は何というのか、そういう難しいことは分からなくても大丈夫です。きれいだな、かわいいな、しか分からなくても全然OKです。だんだんシダが好きになったら、そのシダがどんなシダか気になってくることでしょう。推しシダが見つかるかもしれませんし。
STEP2 どんなシダがいるか調べてみよう
いかにもシダっぽい羽状複葉のシダもいれば、イメージに反する形のシダもいます。どんなシダがいるのか?植物図鑑を見て、その多様性に触れてみましょう。あるいは、自然科学を扱う博物館や植物園に行くのもいいでしょう。
カニクサやイノモトソウのように、都心に生えている植物の中にもシダっぽくないシダがいます。その存在を知ってから外に出てみれば、「えっ、これもシダだったのか!?」と思うはずです。そうすれば、街をただ歩いたり、信号待ちをしている時間がずっと楽しくなることでしょう。
STEP3 シダの体と分類を知ろう
シダに興味が湧いてきたら、いよいよ勉強してみましょう。知識がつけばもっとシダワールドが楽しくなるはずです。調べてほしいのが体の部位の名前、そして分類です。分類といっても、最初から種まで同定しようとするのは難易度が高いので、まずは目の前にあるシダが何科に属するシダなのかが分かるようになるといいですね。科を見分けるポイントは何かというと、もちろん全体的な見た目もありますが、重要なのが葉の裏にある胞子嚢群(ソーラス)の形と配置です。つまり同定のためにはシダの体の仕組みを学んでおく必要があるわけです。シダの体のパーツについて学ぶ。そして科ごとの特徴を把握する。そうすれば、シダを見た時に「おっ!このシダは・・・なんていう種類かは分からないけど、ウラボシ科だな!」となるはず。ここまで来ればもう世界はバラ色に輝いて、いや、シダ色に見えてくることでしょう。
まずは純粋に楽しむ。興味が出て「もっと知りたい」と思ったら、体の特徴や分類、生態や進化の歴史について勉強する。この流れは、シダに限らずあらゆる生物への理解を深める過程として共通していると思います。この記事を読んでいる皆様もきっとそうでしょう。
生物を学ぶことは、豊かな自然環境を愛し尊び守ることにつながり、それは人類の健全で幸福な生活と未来を守るために必要だと思います。でも、勉強というものは往々にして大変で退屈です。生物に魅力を感じていない人に向かって「地球と人類の未来のために今すぐ生物を勉強しろ!」と怒鳴ったところでむしろ逆効果でしょう。まず大事なのは、生物の魅力を知ってもらうこと。興味を持ってもらうこと。その大切さを実感し、守りたいと思ってもらうこと。それが巡り巡って地球と人類を救うと信じています。ということで、これまで動物にしか興味なかったという読者の皆様におかれましても、シダに、そして植物に、興味を持ってもらえましたら幸いです。

参考文献
柴田規夫『植物なんでも事典 ぜんぶわかる!植物の形態・分類・生理・生態・環境・文化』文一総合出版、2019
田中法生『異端の植物「水草」を科学する: 水草はなぜ水中を生きるのか?』ベレ出版、2012


